Googleの時代は終わる。ブロックチェーンxAIが次のパラダイム=George Gilder氏

AI新聞

クラウドコンピューティングがAI機能を搭載するにつれ、全産業のコンピューティング需要の受け皿として、Amazon、Googleなどのクラウドビジネスが巨大化する。世界中のビジネスは米国のテクノロジー大手企業に牛耳られ、富と権力が少数のテック大手に集中する。そうしたシナリオが多くの業界関係者の主流意見になり始めたが、そうした中、早くも真逆の意見をいう米国人作家が現れた。George Gilder氏がその人で、テクノロジーの劇的なパラダイムシフトが始まり、Googleなどテック大手の全盛期が終焉に向かうと言うのだ。テクノロジーに関する未来予測本をこれまでに何度もヒットさせてきたベストセラー作家だけに、一部米国メディアが同氏の意見に注目し始めている。同氏は夏までにLife After Googleと題した本の出版を予定しており、現在はわざと情報を出し渋っている様子。それでも過去の記事や最近の講演ビデオの内容を統合すると、同氏が考える次のパラダイムを支える技術が、どうやらAIとブロックチェーンの組み合わせのようなものであることが分かってきた。時代が「クラウドxAI」に進むと見られていたのが、同氏は「ブロックチェーンxAI」に移行すると主張するわけだ。非常におもしろい意見なので今回から何回かのコラムに分けて、同氏の考える次の技術アーキテクチャーの内容を詳しく見ていきたい。

クラウドコンピューティングにAIが搭載されてAmazon、Googleが今までと桁違いの大企業になるというシナリオに関しては、AI新聞で、AIクラウドの覇者が史上最大の企業になる!? という記事にまとめた。同記事の中でも書いたが、MIT Technology Review誌はAIクラウドの覇権争いの勝者が史上最大の企業になると予測しているし、調査会社Future Today Instituteのレポート「2018 Tech Trends Report」は、AIクラウドをテクノロジー業界の今年の重要トレンドの一番最初に取り上げている。また最近ではKDDI綜合研究所の小林雅一氏が、講談社のサイト上で、米IT大手が狙う「クラウドAIによる全産業支配」の全貌という記事を書いている。

ところが日本版Forbesのテクノロジーの預言者ジョージ・ギルダーが語る「グーグルの次の時代」 という記事によると、Gilder氏は次のように語っている。

大規模データセンターやAI決定論におけるグーグル・パラダイムは、次の時代には凌駕されていると、私は確信している。

AmazonやGoogleなどのクラウドコンピューティングは全産業を支配するどころか、全く新しいコンピューター・アーキテクチャが出現し、クラウドコンピューティングを過去の時代の遺物にしてしまうと言うのだ。日本版Forbesの記事は本家米国版のいわば要約に過ぎず、多くの情報が削ぎ落とされている。なので米国版の内容を基に同氏の主張をより詳しく見てみたいと思う。

パラダイムシフトを起こすゴードン・ベルの法則

米国版では次のようなインタビューになっている。

大手企業に権力が集中する中で、世界中からシリコンバレーに集まってきた若者たちが、画期的なベンチャー企業を次々と立ち上げている例を語るGilder氏。同氏にとって未来は、よりクリエイティブで、より画期的な企業の集合になると見えているようだ。インタビュアーが「テック大手が競合他社を買収し、ネットが大手によって分断されていってます。そしてテック大手がそれぞれの事業に投資し合う関係。そんな状況ででも、ですか?」と質問している。そんな状況でも、優秀なベンチャー企業が数多く生まれ活躍する時代になるのか、という質問だ。これに対し、Gilder氏は「そんな状況は長く続きません。なぜならゴードン・ベルの法則があるからです」と答えている。

ゴードン・ベルの法則とは、元Digital Equipmentで今はMicrosoftに務める著名技術者Gordon Bell氏が提唱したテック業界の経験則だ。テック業界の経験則としては、「約2年でコンピューターは2倍賢くなる」というムーアの法則が有名だが、ゴードン・ベルの法則はムーアの法則を拡大解釈したもので、「10年でコンピューティングコストは100分の1になる」というもの。10年前に1000万円の情報システムがやっていたデータ処理が、今なら10万円のパソコン一台でできるようになった、というような話だ。

1000万円かけて情報システムに投資しても10年たつとパソコン1台の価値しかない。システムの価値が10年でそこまで下がるのなら、自社で高額なシステムを購入するよりも、使った分だけ課金されるクラウドコンピューティングを使ったほうがいい。Gilder氏は2006年に、これからクラウドコンピューティングの全盛時代に入ると予測する記事を書いた。

ところがビジネス雑誌であるForbesは取り上げてくれず、結局SF的な記事なども掲載する雑誌Wiredに取り上げてもらうことになった。あれから10年、米国では雪崩を打って企業がクラウドコンピューティングに鞍替えし始めた。同氏の予測は的中したわけだ。

インタビュアーは「そしてクラウドコンピューティングにとって10年以上が経ちました。ゴードン・ベルの法則が重視する10年という時間を超えましたね」と水を向ける。これに対しGilder氏は「なので新しいアーキテクチャーが立ち上がってきました」と宣言している。

新しいアーキテクチャーは、ネット上のパワーのさらなる集中からくるセキュリティーなどの問題を解決します。(中略)

新しいアーキテクチャーは、Google、Amazon、Facebook、Appleなどへのパワーの集中を逆戻りさせ、クラウド上に集中するコンピューティングやコマースを解体させます。

クラウドコンピューティングの課題はセキュリティ。最近ではFacebookが大量の個人情報をリークさせたことが米国では大きな社会問題になっている。もしクラウドよりも安価で安全な技術があるのなら、産業界も消費者もそちらに流れるはず。クラウドにAIが搭載されるようになっても、一部メディアが予測するような「全産業支配」には発展しない。Gilder氏はそう予測するわけだ。

新しいテクノロジーはブロックチェーンがベース

では、クラウドに変わる新しいアーキテクチャーとはどのようなものなのだろう。

このインタビューの中では断片情報しか出てこない。断片情報は次のような感じだ。

ベルの法則は、新しいアーキテクチャーを手にする状況になったと言う。そして驚くなかれ、実際に新しいアーキテクチャーが登場した。暗号化技術をベースにしたもので、暗号化技術がブロックチェーン、ハッシュ関数、その他の関連した発明をベースにした新しいコンピューターアーキテクチャーを生み出した。(中略)

デジタルとシリコンの時代から、アナログとカーボンナノチューブとセンサーと5Gアンテナのついたハイブリッドチップがあちらこちらに存在する時代になる。(中略)

クラウド(雲)は散り散りバラバラになり、ブロックチェーン上に拡散されたノートパソコンやスマートフォンによってスカイ・コンピューティングの時代になる。

なぜブロックチェーンなのか。ブロックチェーンをベースにした新しいコンピューティングアーキテクチャーとはどのようなものなのか。

米国版Forbesの記事の中に答えはない。正解は、7月16日発売のLife After Googleを待つしかないが、YouTube上で検索していたら本の内容に触れている講演動画が幾つかあった。

それによると新しいコンピューティングアーキテクチャーのベースになるのが、ブロックチェーンの中でもBlockstackと呼ばれる新しい技術らしい。

Blockstackがどのような技術で、なぜ同氏がこの技術を有望視するのかは、次のコラムで取り上げてみたい。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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