米AmazonのAI研究者が来日したので、Alexaの仕組みについて聞いてみた②

AI新聞

記事の前半部分はこちら

Ravi Jain氏によると、Amazonは、Alexaを秘書型から親友型に進化させるべく、今年も世界中の大学の研究チームを巻き込んだ研究開発コンテスト「Alexa Prize」を行っているという。

Amazonが、AIを人間の親友にする?「Alexa Prize」に要注目という記事の中でも書いたが、最も優れた「ソーシャルボット(親友型AIのこと)」を開発した大学のチームに、50万ドル(約5000万円)という巨額の賞金が贈られるコンテストだ。最終目標は、つじつまがあって楽しい会話を20分間続けることができて、審査員から5点満点中4点以上の平均点を獲得すること。この最終目標を達成したチームの大学には、さらに100万ドル(約1億円)の研究予算がプレゼントされるという。大盤振る舞いだ。

Alexa Prizeは2017年から始まり、2017年度は応募してきた100チームの中からカーネギーメロン大学などの12チームがスポンサードチームに選ばれた。スポンサードチームには、開発に必要なAlexaデバイスと、Amazonのクラウド・コンピューティング・サービス「AWS」を無料で使う権利、研究資金25万ドル(約2500万円)などが与えられた。スポンサードチームには選ばれなかったものの審査を優秀な成績で通過した補欠チーム6チームも加わり、全18チームが半年間に渡って、Amazon Echo上で一般ユーザーに利用してもらうことで優劣を競った。

優勝したのはワシントン大学のチームSounding Boardで、平均対話時間は10分22秒。5段階評価で平均3.17を獲得した。下の写真は、優勝チーム。賞金の50万ドル(約5000万円)は、みんなで分けるそうだ。

Ravi Jain氏にさらに話を聞いた。

ーーコンテストを開催してみた感想は?

残念ながら最終目標には達成しなかったが、学問的には非常に大きな前進があったと思います。ここまで多くのユーザーに使ってもらって性能を試せたり、データを集めることのできる機会は、そう多くない。結果として、このプロジェクトを通じて、多くの論文が発表されることになりました。

見せてもらった一覧表には、各チームから発表された18の論文のリストが乗っている。

「対話のランキングのためのアンサンブルモデル」「ディープラーニングを使ったチャットボットの強化学習」「対話エージェントの評価と比較」対話ボットのトピックスごとの評価」「ソーシャルボットの2レイヤーダイヤログ・フレームワーク」「話題の豊富さと対話に引き込むことのバランスの取り方」などなど。

対話を評価する技術に関する論文が多い。「対話を評価する方法が確立すれば、あとはその評価ポイントを高めるためにアルゴリズムを工夫すればいいわけですから」。ソーシャルボットは、どうやらまだ評価の方法を確立しようというフェーズのようだ。

 

Alexa Prizeは今年も継続されて行われることになった。

ーーなぜ今年も継続してコンテストをするのですか?

まだ最終目標をクリアしていないからです。目標の20分の半分である10分に達しました。あと半分と思われるかもしれないけど、難易度は前半の半分と比較になりません。対話は1分伸びれば、難易度は何倍にも増える。なので、半分まできたというより、まだまだ先は長いと考えています。

今年は15カ国以上のトップレベルの大学から応募が寄せられ、学問的貢献度やアイデアの斬新さなどから審査した結果、英Heriot-Watt大学、チェコのチェコ工科大学、米ブリガムヤング大学など12校が選抜された。11月には優勝チームが発表されることになる。

昨年も今年も、残念ながら日本の大学からの応募はなかったようだ。日本でも昨年末からAIスピーカーが販売されているので、来年辺りには日本の大学からもこのコンテストに応募するチームが現れるかもしれない。

ところで、世界トップレベルのソーシャルボットとの対話って、実際にはどんな感じなんだろう。実は日本にいながらにして、Alexa Prizeに参加するソーシャルボットと対話できる裏技がある。

Amazon Echoを日本のAmazon.co.jpのアカウントではなく米国のAmazon.comのアカウントで設定すれば、Alexaが英語仕様になりAmazon Prizeのソーシャルボットと対話することができる。

Amazon.comでアカウントを作るのも面倒だし、AlexaアプリでEchoのアカウントを切り替えるのも面倒。ソーシャルボットととも英語で話さなければならない。いろいろと結構面倒なので、なにがなんでもお勧めするというわけではないが、ある程度の英語力と時間、労力のある人は、試してみてもいいかもしれない。

僕は、アメリカに住んでいたころにAmazon.comのアカウントを持っていたので、それを使ってEchoのアカウントを切り替えた。切り替えると、Alexaが英語をしゃべり始めた。当たり前だけど。

まずはAlexaに対して「Let’s chat(お話しましょう)」と話しかけてみる。

そうすると「〇〇大学チームのソーシャルボットの〇〇です」と、コンテスト参加チームのソーシャルボットが立ち上がった。どうやら「Let’s Chat」と話しかけるたびに、異なる大学チームのボットが登場するらしい。

「政治、スポーツ、芸能、音楽、スターウォーズ、どんなことを話したいですか?」と聞いてくるので、「スターウォーズ」と答えると、「スターウォーズのジョージ・ルーカス監督は、〇〇という映画を手がけたこともあります。知ってました?」という雑学を披露してきた。「あ、そうなんだ」と相づちを打つと、スターウォーズに関するジョークを言ってきたりする。

「もうスターウォーズの話はいいや。別の話をしよう」と言うと、「政治、スポーツ、芸能、音楽、ゲーム、どんなことを話したい?」と聞いてきた。「どれも興味ない」と言うと「好きな歌手いる?」「いない」「好きな映画スターは?」などと聞いてくる。適当に返事して飽きてきたので「もういいや。バイバイ」というと、「会話をやめたいときは一言、ストップと言ってね」。「ストップ」。「じゃあ最後の質問、今の対話をランク付けすれば、5段階評価でいくつになる?」「3かなあ」。「ありがとう。またお話したくなったらLet’s chatって声をかけてね」。そう言ったあとソーシャルボットは、黙った。

個人的な感想はと言うと、うんちく好きの友人と会話している感じ。当たり前だけど、ソーシャルボットは、なんでも知ってる。

ただおしゃべりの目的って、情報を得ることだけじゃない。相手の話も聞きたいが、同様にこちらの話も聞いてもらいたい。理解してもらいたい。共感してもらいたい。おしゃべりの目的って、互いに理解し合い、共感し合うことじゃないのかな。

AIに意識はないので共感はできないのかもしれないが、少なくとも共感しているような反応は示してほしいもの。

自分の知識をひけらかすボットではなく、こちらの話を聞いてくれる「聞き上手」ボットの方が人気が出るように思う。もしくは「聞き上手」「共感」は、どこまで行っても、人間の役割かもしれない。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

  • Home
  • AI新聞
  • 米AmazonのAI研究者が来日したので、Alexaの仕組みについて聞いてみた②

この機能は有料会員限定です。
ご契約見直しについては事務局にお問い合わせください。

関連記事

記事一覧を見る