AI向け半導体といっても、大別すると2種類ある。画像認識を例に取ると、大量の画像データから一定のパターンを認識する「学習」用半導体と、学習済みモデルをベースに何の画像かを判断する「推論」用半導体の2種類だ。
「学習」用のほうが比較にならないほど大量の電力を消費するし、サイズも大きい。なのでスマートフォンなどの小型のデバイスには「推論」用の半導体のみを搭載。「学習」はデータをクラウドに送り、クラウド上の「学習」用半導体で行うというのが、これまでのやり方だった。
ところが最近はスマホなどのエッジデバイスにも学習用の半導体が搭載されるようになってきた。
iPhone8とiPhoneXに搭載されたA11チップはニューラルエンジンが搭載されていて、1秒間に6000億回の演算処理が可能になった。このチップのお陰で、クラウドにデータを送らなくてもiPhone上でユーザーの顔を「学習」し、ロック解除という「推論」が可能になっている。
顔データは、ユーザーのiPhone以外のデバイスと共有されることがないので、プライバシーやセキュリティの面でも安心できるわけだ。iPhone上の半導体だけで学習できるようになったからこそ、顔認識によるロック解除を実装してきたのだとも言える。
半導体大手Intelは半導体業界の老舗メーカーの意地にかけてもAppleに追いつかなければならず、MyriadXというエッジデバイス搭載用の画像処理チップを開発したMovidius社を買収した。
MyriadXは、スマホのみならず赤ちゃんのモニターカメラなどの家電や、ドローンなどのエッジデバイスにも搭載されるものとみられている。
一方、エッジ側での学習には、プライバシー保護だけではなく、レスポンス時間短縮のメリットもある。
Googleは、「federated learning」という名称で、一部の学習機能を エッジデバイス側に持たせる仕組みの開発を続けている。Googleが開発したキーボード「Gボード」はfederated leaningを搭載、キーボード上の半導体がユーザーの入力パターンなどを学習することで、予測変換などのレスポンスを速くすることに成功しているようだ。
エッジデバイス上で学習できるようになったことで、プライバシー保護とレスポンスが向上する。このことが新たなビジネスモデルにつながるかもしれない。要注目領域の1つだ。