春田真氏が見た今年のCES「本当に日本は遅れているのか

AI新聞

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市CESに株式会社エクサウィザーズの春田真会長(当時、現代表取締役社長)が参加。このほど帰国した。DeNA元会長としてテクノロジー業界の数多くの変遷の中を生き抜いてきた春田氏。彼に今年のCESはどう映ったのだろうか。どんな気づきがあったのだろうか。まだ時差ボケが残っているという春田氏に話を聞いた。

 

ーー今年のCESはどうでした?

 

春田 疲れました(笑)。

 

ーー会場も広いですし、人も多いですもんね。どんな気づきがありました?

 

春田 大きな気づきとしては2つですね。1つは自動車に関して。もう一つは家電に関してです。

 

自動車に関しては、去年はまだ自動運転が新しいテクノロジーとして取り扱われていたようなレベルだったけど、今年のCESでは近い将来自動運転になるということが当たり前の前提として扱われていました。というのが、一緒に行った人で、去年も参加されていた人の意見でした。

 

ーーなんだ、春田さんの意見じゃないのか(笑)。春田さんはどう思いました?

 

春田 僕は、ちょっと人と違う感じを持ちましたね。トヨタが、e-Paletteというプラットホームを発表してきましたが、トヨタってどこを目指しているんだろうって思いました。トヨタは車を作るのが得意なはず。プラットホームは、競合するGoogleやUberなどのシリコンバレーのテック企業が得意とする領域。そんな領域に、どうして打って出るのかなって思いました。

 

ーーそこが儲かるからじゃないですか。というか、車を作ることって、中国やインドでもできるようになる。コモディティになる領域よりも上のレイヤーで戦うしかない。そう考えたからじゃないでしょうか?

 

まあそう考える人は多いですよね。でも本当にそうなのかなあ。もちろんただ走るだけの車なら、新興ベンチャーにも作れるでしょうけど。でも車ってただ走るだけじゃダメですよね。安全面もしっかりしていないといけないし、乗り心地もよくないといけない。だれにでも作れるものじゃないと思うんです。

 

テスラの新型のmodel3って、予約が殺到して作れば売れる状態。なのに、発売延期になりましたよね。それってやっぱり車を作るのって簡単じゃないという証拠じゃないか、と思うんです。

 

よく日本の自動車産業はシリコンバレーから2、3年遅れているという人がいるけど、本当にそうなのかなって思いますね。いい車を作ることの大変さを分かっていない人の意見じゃないのかなと思います。

 

ーーなるほどね。これからの自動車産業はサービスやシェアリングのプラットホームが重要になるという意見と、それとは逆にやはり大事なのは自動車というハードウェアだという意見の両方を耳にします。春田さんは、後者ということですね。

 

春田 そうです。モノづくりって、それほど簡単じゃないと思うんです。

 

ーー僕は正直、この2つの意見のどちらが正しいか分からないです。判断を保留しているってとこです。では、もう1つの領域、家電の領域では、どんな気づきがありましたか?

 

春田 LGやサムスンの展示の勢いがものすごかったです。社員も自信たっぷりにプレゼンしていました。その一方で、日本の家電メーカーはあまり存在感がなかった。日本の家電メーカーの人たちにそのことを話すると「われわれだってあれぐらいの技術は当然持ってます」みたいなことを言う。

 

いや、本当にそうなんだと思いますよ。技術力では全然負けてないんだと思います。でもCESで存在感を出さないのは、2つの意味で危険だと思います。

 

1つは、技術力はどうであれ、韓国勢はマーケティング的にはものすごく勢いがありました。CESには世界中からバイヤーが集まってくるのだと思いますが、世界のバイヤーに韓国の勢いを印象付けることに成功したのだと思います。

 

もう1つは、今の技術力がどうであれ、製品を出して世に問うことで、たとえ失敗しても経験値を得ることができる。うさぎが油断している間に、亀は少しずつ進んでいくのです。

 

【インタビューを終えて】

春田氏は友人でもあるので、これまでにいろいろな話をしてきた。僕がジャーナリズム的に幅広く事象を俯瞰しようとする中で、春田氏は自分の現場の経験に基づいた意見を言う。ともすれば地に足のつかない僕の議論に対して、春田氏は常に現実的な視点を提供してくれる。本当にありがたい。

 

今回の見解も、現場経験豊富な春田氏ならではの意見だと思う。米国のテクノロジー業界の人たちが言うほど、日本の自動車業界は遅れているわけではなく、日本の家電業界の人たちが言うほど、日本の家電業界は安泰ではない。

 

果たしてどうなるのか。両方の業界の今後を見守っていきたい。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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