AIで教育を「ど真ん中から変える」Classi加藤理啓氏の思い

AI新聞

 

「社会に大きなうねりを起こしたいのならど真ん中のど真ん中を攻めろ。ものすごい逆風を受けるだろうが、ど真ん中から逃げるな」(ソフトバンク孫正義氏)。ソフトバンクで同氏の薫陶を受けたClassiの加藤理啓氏は、孫氏の言葉を胸に、学校という「教育のど真ん中」に狙いを定めた。創業3年にして全国の高等学校の40%を超える2100校(生徒数で80万人以上)が既にClassiを有料で導入。そしてこのプラットフォームにAIを導入することで、ど真ん中の教育改革をさらに加速させたいと言う。

 

ーーClassiってどんなサービスですか?

加藤「一言で言うと学校教育のプラットフォームです。大きく3つの機能があります。1つは、宿題のパーソナライズ機能。教師をアシストする形で、生徒一人一人の学力(到達度)に合った宿題をレコメンドする機能の拡充を目指しています。2つ目は、コミュニケーションツール。企業で導入が進んでいるSlackのようなメッセージングツールの学校版です。生徒がグループになってプロジェクトを進める際などに、スマートフォンで帰宅後も連絡を取り合えるようになっています。3つ目は、いろいろなサードパーティのアプリを乗せることができるプラットフォームです。現在、英語の発音や流ちょうさを音声認識でリアルタイムにチェックしてくれるアプリや、部活の動画を簡単に編集できるアプリなどが搭載されています」。

ーーどれくらいの学校に導入されているのですか?

加藤「全国の高等学校の40%超に当たる約2100校に導入いただいています。あとは中学が約500校、小学校が約500校、それぞれ参加していただいています」。

ーーものすごい数ですね。そもそもどういう理由で、学校教育向けのICTサービスを始めようと思ったのですか?

加藤「ソフトバンク時代に新規事業を担当していました。日本が抱える課題には、労働人口の減少、医療費の高騰、教育などがありますが、教育だけが有効な打ち手となるサービスがあまりないように思えたんです。また自分の親、祖父、曾祖父が全員教育者だったこともあり、自分の残りの人生を教育に賭けたいと思うようになりました」「それとショッキングな統計を目にしたことも、私を教育に駆り立てました。その統計とは、1つは、高校生の5人のうち4人が『自分や将来に希望や自信を持てないというものです。そしてもう一つは、中学生の6人に一人が年収125万円以下の貧困層、という数字です」。

ーーそれはショッキングですね。5人のうち4人が、将来に希望を持てないって、悲し過ぎますね。

加藤「そうなんです。貧困層は母子家庭も多く、お母さんは一生懸命働いて経済的には子供を支えています。ただ子供にかまってあげる時間がない。その結果、勉強の習慣を身につけることができなくなるケースが多いようです。そうした課題もテクノロジーで解決できるのではないかと考えたわけです」。

ーーでもどうして学校教育なんですか?

加藤「孫正義が、社会を変えるような大きな変革のうねりを起こすには、ど真ん中のさらにど真ん中へ行け、とよく言うんです。ど真ん中ってやりにくいんですよ、抵抗勢力も多くて。でも端のほうで小さく成功しても、世の中は大きく変わらない。なので孫さんは、真ん中から逃げるなってよく言ってるんです。それで教育のど真ん中のそのまたど真ん中ってどこかって言うと、学校だと思ったんです」。

ーーでもど真ん中だけあって、学校教育って取り組みにくいんじゃないでしょうか。

最初は本当に大変でした。学校に行っても、明確なITの担当部署というものがありません。ITを導入したいというニーズもなければ、予算もない。でも一方で、何か困ったことありますか、と先生方に聞けば、困ったことだらけ、課題だらけなんです。多くの課題は、ITで解決できそうなものが多かった。そこでベネッセの学校カンパニーというB2Bのチームと組むことを思いつきました。

ーーベネッセの学校カンパニーって、学校とのパイプが強いんですか?

そうなんです。進研模試という模擬試験を中心としたアセスメント事業を約60年間に渡って実施していて、全国の90%以上の学校との取り引きがあるんです。先生方との信頼関係もあるし、何より学校の課題を理解していました。そこでソフトバンクとベネッセとの合弁会社としてClassiを設立することになったんです。

ーー4割もシェアを握ると、いろいろできることが増えてくるんじゃないでしょうか?

はい。Classiがプラットフォームになり、いろいろなアプリがその上に乗るようになってきています。英語の発音をチェックしてくれるアプリや、プログラミング関連のアプリ、部活の動画編集に特化したアプリなど、おもしろい教育向けのアプリが乗ってきています。

また今後はAIもどんどん導入していきたいと思っています。今は夜中の2時ぐらいに高校生たちがTwitter上で「ここが分かんないよ〜」って叫んでいます。そんな子供達が分からないことがあったときにClassiで「分からない」とつぶやけば、ClassiのAIが答えてくれるようになったら、すばらしいなって思います。勉強だけではなく、いろんなことをAIに相談できるようになればいいなとも思います。教育ってITやAIでもっと効率よくできるようになると思うんです。そしてそうしたツールを使うことで、先生方に時間の余裕ができる。その時間を使って先生方が、生徒たちとのつながりをより深めていってもらえればって思っています。

ほかにも、いろいろな企業、機関と組んで、テクノロジーを使った斬新な取り組みのプロジェクトを進めていきたいと思います。先述の貧困の問題や全国に20万人以上いると言われている不登校の子供達など、教育にはまだまだ大きな課題が山積しています。なのでWebエンジニアやAIエンジニアを、多数採用していきたいと思っています。テクノロジーを使って教育のど真ん中である学校を変えたいと思っている方には、ぜひジョインしていただきたいと思います。

ーー加藤さんご自身は、Classi、もしくは学校教育への取り組みをいつまで続けるつもりですか?

ずっと続けます。ライフワークとして、残りの人生を賭けるつもりです。絶対に辞めないです。確かにときには大変な障害にぶち当たって、僕もClassiのメンバーもくじけそうになることがあります。でもそんなときわれわれを支えているのは、日本の未来を担う子供の可能性という未来に貢献をしているんだという自負です。この思いがある限り、われわれはどんな課題でもクリアしていけるんだと思います。

【加藤理啓さん インタビュー動画】

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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