いよいよスマートスピーカー発売ラッシュ。最後に笑うのは?

AI新聞

ソニーが発表したGoogleアシスタント対応のスマートスピーカ

http://www.sony.jp/smart-speaker/products/LF-S50G/

アマゾンEcho(エコー)に代表されるスマートスピーカーと呼ばれるタイプの電子機器の発表、発売ラッシュが始まった。年末から来年にかけて日本国内でも、アップル、グーグル、サムスン、LINE、パナソニック、オンキョー、ソニーなどといった有力プレーヤーから次々と関連製品が発売になる見通しで、ポストスマホ時代の覇権争いが本格化することになる。そんな中、アマゾンとマイクロソフトがこの領域での提携を発表するなど、早くも合従連衡の動きも始まった。ポストスマホ時代の覇者は、どのような企業になるのだろうか。あえてこの段階で、今後のシナリオを予測しておきたい。

スマートスピーカーとは、バーチャルアシスタントと呼ばれるような人工知能(AI)が搭載された電子機器。iPhoneのバーチャルアシスタント「siri」のようなものが載ったスピーカーと考えればいいだろう。ボタンを押すなどの操作は必要なく、話しかけるだけで質問に答えてくれたり音楽をかけてくれるのが特徴だ。

米国ではアマゾンのスマートスピーカー「アマゾンEcho」が市場を席巻しているが、いよいよ日本でもスマートスピーカーの発売ラッシュが起ころうとしている。

スマートスピーカーは、日本でもヒットする?

米国同様に、日本でもスマートスピーカーは大ヒット製品になるのだろうか?

恐らくスマートスピーカーは、最初はそれほど売れないだろうと思う。現時点では、スマートスピーカーにできることが、非常に限られているからだ。

スマホを取り出さずに、音声コマンドだけで時刻や天気予報を聞けるのは確かに便利だ。「東京の人口は?」といった疑問に、すぐに答えてくれるのはありがたい。しかしその程度のことのために新しいデバイスを買う人が、果たしてどれくらいいるのだろうか。

ただ音楽好きには、魅力的なデバイスかもしれない。「日曜の朝にふさわしいリラックス音楽をかけて」と話かければ、ゆったりとしたムードの音楽をかけ続けてくれる。アマゾンのジェフ・ベゾス氏は、声で操作できることで、家のなかでの音楽の楽しみ方が大きく変化するという。「だれもが気軽に音楽を楽しむようになり、音楽に接する機会が増える。音楽業界は全盛期に向かっているんです」と語っている。

秘書になったときが普及のとき

最初は機能が限定的かもしれないが、スマートスピーカーは今後、ありとあらゆる家電機器やサービスと連携し、声でそれらの機器やサービスを操作できるようになっていく。米国では、アマゾンEchoと連携している家電機器、アプリ、サービスの数は、今年6月の時点で既に1万5000を超えている。テレビや電灯、エアコンをつけたり、リビングルームにいながらにしてガレージの中の自動車のエンジンをかけたりというようなことが、音声コマンドで可能になっている。ピザを注文したり、タクシーを呼んだりもできる。スマートスピーカーが、家電機器、アプリ、サービスの司令塔になるわけだ。

特にスマートホーム機器と呼ばれるような家電機器の司令塔になるころから、スマートスピーカーは徐々に売れ始めるのだと思う。しかし今のスマホを超えるほどの勢いで売れるようになるのは、スマートスピーカーがユーザーの「秘書」になったときだろう。

向こうから話しかけてくる

グーグルのスマートスピーカー「グーグルHome」は、最新のバージョンで「プロアクティブ(能動的)」機能を搭載してきた。聞かれたことに答えるという「受動的」対応ではなく、必要であればスピーカー側から話しかける機能だ。スピーカーのLEDの輪が光り始めれば、グーグルHomeの方から「話しかけたい」というしるし。「OKグーグル、何か用?」と聞くと、「あなたのグーグルカレンダーによると、午後2時からミーティングが入っています。ミーティングに間に合うには1時半に出発しなければならないところですが、高速道路で交通渋滞が発生しました。1時15分に出発することをお勧めします」と答えてくれたりする。スケジュールや交通状況を把握し、適切なアドバイスをする。まさに有能な秘書のようだ。

フェイスブックも、秘書のようなAIを開発中だと言われている。メッセンジャー上で友人と食事に行こうという話で盛り上がれば、自分の秘書AIと相手の秘書AIがスケジュールを調整し、レストランを予約してくれるようになるという。フェイスブックもスマートスピーカーを開発中だと噂されている。フェイスブックのスマートスピーカーに、秘書AI機能が搭載されるのは間違いないだろう。

友人たちが秘書AIでスケジュール調整しているのに、一人だけ秘書AIを使わない友人がいれば、「お前も秘書AIを使えよ」というプレッシャーがかかるに違いない。なのでこのフェーズに入れば、スマートスピーカーは一気に広がるのではないかと思う。

米調査会社ガートナーは、2020年には米国の75%の世帯にスマートスピーカーが普及すると予測している。そこまで普及すれば、スマホと肩を並べるほどの影響力になる。

親友になれば、不可欠の存在に

LINEの舛田淳取締役は、LINEのスマートスピーカーに搭載されているAIが、いずれ秘書や親友のようなものになっていくだろう、と予測している。

アマゾンも同じ将来ビジョンを持っているようだ。アマゾンは、Echoに搭載されたAI「Alexa(アレクサ)」が単純な質問に答えるだけでなく、雑談できるまでになるように研究開発を続けている。具体的には、スポーツや芸能など一般的な話題に少なくとも20分間、つきあえるようなAIの開発を目指しており、昨年から世界中の大学の研究者チームを対象にした開発コンテストを実施中だ。応募してきた約100チームの中から選ばれた上位16チームが今年の4月からEcho上で実証実験を続けており、このほどファイナリストして数チームが選ばれたばかり。ファイナリストは、Echo上でさらに実証実験を続け、11月には優勝チームが決まる予定。優勝したチームのAIは当然、Echoに搭載されることになる。

影響力はテレビ以上

恐らく「秘書」から「親友」に役割が変わっていく中で、スマートスピーカーの形状も、今の円柱の無機質な躯体から、もっとユーザーが愛着を抱くことができるような形に変化していくことだろう。動物のぬいぐるみのような形状になるかもしれないし、ロボットになるかもしれない。形状がスピーカーでなくなったデバイスをいつまでもスマートスピーカーと呼ぶのもおかしいので、ここからはボイスデバイスと呼ぶことにしよう。

ボイスデバイスが消費者の「親友」のような存在になれば、ボイスデバイスは史上最強のメディアになることだろう。消費者一人一人の趣味嗜好を理解するメディア。今何したいのか、どこに行きたいのか、何を買いたいのか、といった消費者のニーズをタイムリーに正確に理解するメディア。ユーザーが全幅の信頼を置くメディアだ。

影響力は、テレビ、ラジオ、新聞、インターネットの比ではなくなるだろう。

狙っているのは、EC市場の売上増などといったちっぽけなものではない。消費者の消費活動すべてに影響を与えることのできる立ち位置こそが、すべてのプレーヤーの最終的なゴールである。

合従連衡が進み、最終的にはすべてのプレーヤーが繋がる時代

ではどのプレーヤーが勝利するのか。恐らく1社の一人勝ちという状況にはならないだろう。これから各プレーヤーは、自分の強みを強調してくると思われる。アマゾンはユーザーの購買履歴などのデータや、スマートホーム市場での独占的な立ち位置を強みに、戦ってくることだろう。マイクロソフトは、Windowsユーザーを抱えている。アップルは、iTunesやMac、iPhoneユーザーを抱えていることが強みになる。グーグルは、検索ユーザー、Androidユーザーを抱えている。LINEは、一部アジアの若い女性の間で圧倒的な強さを誇っている。

こうしたそれぞれが抱えるロイヤリティーの高いユーザー層こそが、それぞれのプレーヤーの強みになる。これまで蓄積してきたデータがそのまま使えるので、ユーザーは、自分が一番使っているサービスのボイスデバイスを購入したくなるからだ。事実、僕の周りの友人たちにヒヤリングしたところ、月額料金を支払ってiTunesを利用している友人たちはアップルのボイスデバイスを購入すると答え、アマゾンのプライム会員になっている友人たちはアマゾンのボイスデバイスを購入したいと話してくれた。アマゾンがプライム会員向け特典を格安利用料で盛りだくさんにしているのは、ボイス時代の覇権争いが本格化する前にできるだけ多くのユーザーを抱え込んでおきたいからだろう。

メーカーを超えてAIが連携する?

それぞれのプレーヤにはそれぞれの強みがあり、どのプレーヤーも自分のユーザーを死守しようとする。なので、勢力図が簡単に塗り替わることはないだろう。そして「敵の敵は味方」というロジックで、プレーヤー同士の連携が始まる。アマゾンとマイクロソフトが組んだのは、グーグルという共通の敵に対抗するためである。

こうした合従連衡はさらに進み、二極化し、さらにはすべてのAIが連携するのではないかと思う。アマゾンとマイクロソフトが連携したおかげで、アマゾンEcho上で「コルタナに代わって」と話しかければ、マイクロソフトのAIコルタナを呼び出すことができる。同様にWindows搭載パソコン上で、コルタナに対して「アレクサに代わって」と話しかければ、アマゾンのAIであるアレクサが立ち上がるようになる。これと同じ様に最終的には、1つのデバイスですべてのプレーヤーのAIを呼び出せるようになるのだと思う。

なぜそう思うのかというと、ユーザーがそれを望むからだ。使い勝手の悪いデバイスやAIからは、ユーザーが離れていく。各プレーヤーが提供するサービスの優劣にそこまで大きな差がない中で、各プレーヤーともユーザー離れの要因になりそうな課題は早急に解決していくことだろう。

勝負は常にユーザーに近いところが勝つ

では今のテック大手が、スマホの次のパラダイムでも仲良く今のシェアを維持していくのか、というと、そうではないと思う。

「親友」になったフェーズでは、ユーザーは自分が一番信頼するAIが搭載されたボイスデバイスを購入し、そのデバイスを通じて他のAIの秘書機能を呼び出すことになるだろう。「秘書」は複数いても問題ないが、腹を割ってすべてを相談する「親友」は一人でいい。最終的には、その「親友」の座を狙って各プレーヤーがしのぎを削ることになるだろう。

アマゾンがその方向を目指して世界の研究者に雑談型AIを開発させているのは、前述した通りだ。一方LINE、フェイスブックは、もともとコミュニケーションが得意分野。なので「親友」AIを作るのは、比較的上手かもしれない。反対にグーグルはAIを「Googleアシスタント」と命名しているところから見て、「秘書」の次の「親友」のフェーズを見通せていないのかもしれない。また新しいスタートアップが突如登場し、「親友」部分だけを取ってしまう可能性もある。

「秘書」のフェーズまでは今日の勢力図の延長線上で予測できるが、「親友」のフェーズはまったく予測不可能な世界。どのような技術が登場し、どのように勢力図を塗り替えるのか。実にワクワクする展開になってきた。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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