アマゾン・エコー vs LINEクローバの戦いはこうなる

AI新聞

スマホの次は、ボイスの時代。米国で絶好調のAmazon Echoが日本で発売される前に、LINEがAIプラットフォーム「Clova(クローバ)」を発表。Amazonに真正面から対抗することを決めた。ボイス時代のハブとなるボイス・ファースト・デバイスは、一家に一台になるという予測もあるが、僕は複数のデバイスが共存可能だと思う。複数のプレーヤーが共存できるほど、ボイス・ファースト・デバイスは、広範囲に影響力を行使するほどになる。そう考えている。

ボイス・ファースト・デバイスとして世界で市販されているのは、今のところAmazon EchoとGoogle Homeの2台だけ。米調査会社VoiceLabsによると、両方の出荷台数の合計は、2015年が170万台、2016年が650万台。2017年には新規参入もあって、ボイス・ファースト・デバイスの出荷台数が、一気に2450万台に伸びると予測されている。今年の年末にはトータルで3300万台のボイス・ファースト・デバイスが、世の中に存在することになる。


出典VoiceLabs


そのデバイス上で動くボイスアプリやサード・パーティ・デバイスも、既に1万個以上あると言われている。多いのは、ニュース、ゲーム、教育関連のアプリ。だが今のところ、マネタイズに成功しているアプリはまだない。

 出典VoiceLabs

VoiceLabsは、今年中にAmazon EchoやGoogle Homeが、アプリ検索や宣伝の仕組みや、マネタイズの方法を導入すると予測。今年中に、マネタイズに成功するヒットアプリが幾つか登場し、来年はその数がさらに増えるだろう、としている。

といってもこれは一部欧米地域での話。気になるのは、日本国内の動向だ。

Amazonからの正式発表はまだないが、Amazonが動き出したという情報が僕のところに次々と寄せられている。日本国内でAmazon Echoの年内発売は、ほぼ間違いないだろう。

一方でLINEは、AIプラットフォームのClovaを搭載したスマートスピーカー「WAVE」を発売する計画を発表している。

Amazon vs LINEの真っ向勝負。勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。

VoiceLabsがAmazon EchoとGoogle Homeのユーザーに対してアンケート調査したところ、両方のデバイスを購入したいと答えた人は11%しかいなかったという。つまり今のところ、ほとんどのユーザーがボイス・ファースト・デバイスは、一家に一台で十分だと考えている。Amazon Echoを購入した人は、Google Homeを購入する気はなく、家の中の家電製品をすべてEcho対応デバイスにしようとする。Google Homeを購入した人は、Amazon Echoを購入せずに、すべての家電をGoogle Homeに準拠させようとする。そういう流れにあるように見える。

生き残れるのは1社のみ。やるか、やられるか。果たして、そういう戦いになるのだろうか。

ボイスが、スマホの次

僕はそうならない、と考えている。なぜならボイスは、次のヒューマンインタフェース(コンピューターと人間の接点の形)であり、影響を及ぼす範囲があまりに広く、複数のキープレイヤーが共存できるだけの市場が十分にあると思うからだ。

コンピューターと人間の接点は、最初はパンチカードだった。それがキーボードになり、マウスになり、タッチスクリーンになった。どんどん人間にとって直感的な操作になっていくのが分かる。スマホのタッチスクリーンよりも直感的な操作と言えば、ボイス。次のヒューマンインタフェースがボイスになることは、間違いないだろう。

そういう話をすると「日本人は恥ずかしがり屋が多いので、ボイス入力する人は少ないのではないか」という反論を受けることがある。確かに満員電車の中でのボイス入力は恥ずかしい。しかし、それは主に大都市圏の話。日本のほとんどの地域に、満員電車は存在しない。

スマホが普及したと言っても、高齢者など、ネットを十分に活用できない人はまだまだ多い。スマホであっても、文字入力が面倒だからだ。そうした人たちも、ボイス・ファースト・デバイスなら、ネットを活用できるようになる。

PC時代からスマホ時代になって、ネットのユーザー数が格段に増えたように、ボイス時代には、ネットユーザー数がさらに伸びるはず。

ネットを通じたビジネスの市場が大きく拡大するわけで、その伸びしろが十分に大きいので、複数のキープレイヤーが共存できるのではないかと思う。

【参考記事】LINEのAIプラットフォーム「Clova」の何がすごいのか解説しよう

スマートホーム、音楽、テレビに変化

では具体的に、どのような領域がボイスの洗礼を受けることにだろうか。

Amazon Echoの利用例を見ると、家電機器には圧倒的な影響を持ち始めた。Echoを通じて音声でコントロールできる照明機器や、音響機器、テレビ、お風呂、ガレージ、スプリンクラー、防犯システム、監視カメラなどが次々と登場している。ボイスでコントロールできない家電製品が売れなくなる時代を迎えようとしているのかもしれない。

音楽もボイスによって大きく変化する業界だろう。既に音楽の聴き放題サービスが幾つか出ているが、ボイスの時代になれば、こうした聴き放題サービスの利用が格段に増えるはずだ。「JPOPのヒット曲を順番にかけて」「勉強に向いたBGMながして」「眠くなるようなリラックス音楽かけて」などと、ボイスで命令するだけで音楽が流れるようになれば、より多くの人がより気軽に音楽を楽しむようになるだろう。音楽利用が格段に増えるはずだ。

Amazon EchoとGoogle Homeのユーザーに対して、「(ボイス・ファースト・デバイスの)何が気に入っていますか」と質問したところ、音楽やオーディオブックを気に入っていると答えた人が最も多く、回答者の46.7%を占めていいた。AmazonのCEO、Jeff Bezosは「音楽ビジネスは全盛期に向かっている」と語っているほど、音楽業界に大きな変化となるだろう。


出典VoiceLabs

またテレビもボイスによって大きく変化する領域だろう。リラックスするためにテレビを見ているのに、現状では、録画や再生に手間がかかり過ぎる。操作が面倒なので、とりあえず今放送されているものを見る、という人も多いと思う。

これが、ボイスで簡単に好きな番組を探せたり、録画、再生ができるようになれば、視聴行動が大きく変化することだろう。ボイス機能を理由に、テレビを買い換える人も出てくるかもしれない。

現時点でのボイス・ファースト・デバイスの機能だけでも、家電、音楽、テレビの領域に大きな変化が起こることは、想像に難くない。しかし機能は進化する。まだ見ぬキラー用途が絶対に存在するはずだ。

キラーはコミュニケーション

そのキラー用途とは、コミュニケーションになるのではないかと思う。

PC全盛時代は、ポータルや検索で幕を開け、最後はFacebookのようなソーシャルなツールが人気となった。スマホ時代は、簡単なアプリやゲームで幕を開けたが、最後はLINEのようなコミュニケーションツールが力を持った。

過去の傾向が続くのであれば、ボイス時代も、キラーアプリはコミュニケーション関連のものになるはずだ。

VoiceLabsのAdam Marchick氏も、「コミュニケーションやソーシャルな機能に関係するボイスアプリが、人気アプリになるだろう」と予測している。FacebookやSnapといったソーシャルのプレーヤーも、ボイスで何らかの動きを見せてくるはずだと言う。

関係者によると、AmazonはLINEに対して熱烈なラブコールを送ったという。Amazonもキラーアプリがコミュニケーションになると考え、LINEを有力パートナーとして取り込もうとしたのだそうだ。

LINE経営者も、キラーアプリがコミュニケーションになるという点においては同じ考えだった。だが、そのキラーアプリを開発するにはハードとソフトの両面が歩調を合わせる必要がある。そうでなければユーザーを魅了する新たな体験を作れないと考えた。なのであえてAmazonからのラブコールを蹴って、自らハードの開発に乗り出したのだという。

VoiceLabsは、ユーザー同士がコミュニケーションできる機能が年内にボイス・ファースト・デバイスに実装される、と予測している。

いよいよボイス・ファースト・デバイスがコミュニケーション機能を搭載するわけだ。

【参考記事】DataRobot使ってAI予測モデル4000個完成。リクルート社内で進む人工知能ツールの民主化

ボイスの時代のすみ分け

進化し続けるボイス・ファースト・デバイス。コミュニケーション機能の次は、AIの進化に伴う対話エンジンの精度の向上が見込まれている。Amazon Echoは、年内にはユーザーの雑談の相手もできるようになるだろう。

進化に伴い、影響を与える領域もさらに広がってくるだろう。現時点でその影響の範囲を見渡せる人はほとんどいないだろう。

ただ莫大な市場になることだけは、感覚的に理解できる。その莫大な市場がAmazonの手中に落ちるのを、世界のテック大手が指をくわえて見ているだけ。そんなわけはない。

Googleは、決してGoogle Homeを諦めないだろうし、そのほかのテック大手もボイス・ファースト・デバイス市場に参入してくるはずだ。

VoiceLabsは、年内にApple、サムスン、Microsoftの3社のうち少なくとも2社は、ボイスファーストの「魅力的な」製品を出すのではないかと予測している。

ただ同じような製品を出してもAmazonには追いつけない。なので各社、自分の強みを出して差別化を図ってくるはずだ。

Googleの強みは、メールやカレンダーのユーザーを数多く抱えていること。メールやカレンダーのデータをベースにしたパーソナライゼーションで、差別化してくるはずだ。

Microsoftは同様に、企業内のメール、カレンダーなどのユーザーを抱えている。ビジネス向けのボイス機能で勝負をかけてくることだろう。

Appleは、AppleTVや新型イヤホンのAirPodsを使って、娯楽の領域での覇権を狙ってくるかもしれない。

最終目的地に向かって一直線に進むLINE

そしてLINEは、日本人に合ったコミュニケーションの形を提案することで、グローバルなプレーヤーに対抗していくのだと思う。

最終的なキラーアプリがコミュニケーションになることは、ほぼ間違いない。他社が、まずは今ある強みを活かす形で戦おうとする中で、LINEは最終目的地に向かって一直線に進もうとしているわけだ。寄り道しない分だけ、有利な戦略かもしれない。

コミュニケーション機能はAIの進化を受けて、さらに賢くなっていく。今は円柱形のスピーカーだが、いずれソーシャルロボットと呼ばれるような小型ロボットに形を変えていくことだろう。そしてユーザーの親友、もしくは分身へと進化していくのだと思う。

そうなればテレビなどの従来型メディアとは比較にならないほどの影響力を消費者に対して持つことになる。広告、マーケティング、物販も大きく変化していくことだろう。

大変化の潮流にいずれなるであろう小川のせせらぎを、われわれは今、目にしているのである。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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