LINEのAIプラットフォーム「Clova」の何がすごいのか解説しよう

AI新聞

INEは、AIプラットフォーム「Clova」でスマートフォンの次のパラダイムの覇権に挑戦することを決めた。そこに立ちはだかるのは、米EC最大手のAmazon。コミュニケーションこそがインターネットの目的という信念のもと、世界の強豪に対するLINEの2度目の挑戦が始まった。

スマホの次はボイス

Clovaは、LINEの日韓のエンジニアが協力して開発したAIプラットフォーム。LINEは、そのAIを搭載したスピーカー型デバイス「WAVE」を今年夏に、ディスプレイ搭載型デバイス「FACE」を2017年冬に発売する計画だ。

狙い撃つはAmazonのスピーカー型デバイスの「Amazon Echo(エコー)」と、それに搭載された音声AI「Alexa(アレクサ)」だ。

Echoは発売以来、数百万台が出荷されたと推計されているAmazonの大ヒット商品。しかし出荷台数より重要なのが、EchoやAlexaと連携するサードパーティのデバイスやアプリの数。既に8000以上のデバイスやアプリがEchoによって音声で操作することが可能だと言われている。

スマートフォンですべての家電製品の操作が可能な「スマートフォーム」を実現しようと、これまでシリコンバレーのテック大手を始め、世界中の大手家電メーカーがさまざまな標準技術を提唱してきた。

しかし標準化が一向に進まない中、Amazonがボイス機能を核に欧米の業界標準をあっという間に手中に収めたのだ。

発表、発売をEchoより先行させろ

そのEchoが日本でも年内に発売になるという噂がある。「エンジニアの引き抜きが始まった」「Amazonの技術を採用するよう大手メーカーを説得し始めた」という情報を耳にするようになったし、ハードウェア担当の広報パーソンや、日本語データ処理の担当者の人材募集も始まっている。

【参考記事】日本でもAmazon Echo年内発売?既に業界は戦々恐々

米国のテクノロジー大手は、1年で最も消費が活発になるクリスマス商戦を念頭に置いて、初夏に新商品を発表し、秋に発売するパターンが多い。このパターンを日本でも踏襲するとすれば、Amazon Echoの日本国内での発売は秋、発表は初夏になる可能性が高い。

もしどこかの日本企業が対抗策を何も打ち出さないのであれば、ほとんどすべての家電メーカーやアプリ開発企業はAmazonになびき、日本市場もまたAmazonの手中に落ちることになる。

そうなる前に発表するしかない。タイミングは今しかない。LINE経営陣はそう判断したのだろう。

なぜ戦う方を選んだのか

しかしなぜLINEは、Amazonに対抗することを選んだのだろうか。AmazonはAlexaを無償で公開している。他の8000ものサードパーティと同様に、Alexaに準拠する方を選ぶほうが、ビジネス的には賢明なのではないだろうか。

個人的にLINEの経営陣とは何度もお話をさせていただいたことがあるが、変なプライドで動く人たちではない。Amazonと連携するよりも、対抗してでも実現したいビジョンがあったのだと思う。

そのビジョンとは何か。それはコミュニケーションこそがボイス時代のキラーアプリの1つになるというビジョンだ。

ボイス時代のキラーアプリは何になるのか。スマホの次の時代に興味を持つ人とこれまで何度も議論を重ねてきたが、だれもが納得する明確な答えはまだ存在しない。恐らく最初にこのキラーアプリを見つけ出して普及させた企業が、ボイス時代の覇者になるのだと思う。

今のところEchoでよく使われるのは音楽再生機能や、タイマー機能。Echoで照明やテレビのスイッチを操作できたり、ピザを注文できたりもするが、そうした機能が本当に人々のライフスタイルを変えるキラーアプリになりえるのだろうか。多くの人が首を傾げる。

LINEの経営陣は、コミュニケーションこそがボイス時代のキラーアプリになるというビジョンの下、Amazonに対抗することに決めたのではないかと思う。

コミュニケーションがいつの時代もキラーアプリ

LINEの経営陣は、コミュニケーションこそがインターネットの最終目的である、と考えている。これまで何回も彼らと議論する中で、彼らが心の底からそう信じていることを感じてきた。

事実、私もネットの最終目的はコミュニケーションではないかと思っている。ネットにアクセスするデバイスが移り変わろうと、最後にはコミュニケーションのサービスやアプリで成功したところが時代の覇者になってきた。

主にパソコンでネットにアクセスしていたころ、最初は情報を整理していたYahoo!やGoogleが覇権を握った。しかし最終的には、人々のコミュニケーションの担い手であるFacebookがネット上の覇者になった。

主流デバイスがネットからスマホに移行したときも、最初はいろいろなアプリやゲームが流行った。しかしゲームの市場が一段落した今、最もユーザーが利用するのがコミュニケーションアプリ。日本を中心とするアジア地域ではLINEが圧倒的な強さを誇っている。

ボイス時代も、最終的にはコミュニケーションアプリがキラーアプリになるのではないか。LINEの経営陣はそう考えているのではないかと思う。

Amazonもその可能性に気づいているようで、米大手通信事業者のAT&Tと提携。Echoに向けて発声した音声を文字に変換し、AT&Tの携帯電話にメールとして送信できるようにした。またLINEを含む世界のメッセンジャー大手に対し、協業を積極的に呼びかけているという話を聞いたこともある。

新しいフロンティアはハードとソフトの両方必要

もしコミュニケーションがボイス時代のキラーアプリになるのであれば、それを実現するようなハードウェアやソフトウェアはどのようなものになるのだろう。

恐らくソフトウェア単体、ハードウェア単体では、広くユーザーを魅了するようなエクスペリエンスを提供することは無理だろう。

ハード、ソフト両面から、ユーザーのニーズ、感性にぴったりと合った体験をデザインする必要がある。

そう考えてLINEはあえてAmazonと手を組まず、自らのビジョンを実現するために動いたのだと思う。

世界でまだだれも実現していない新しい時代のインターフェイスを目指す。それがClovaのすごいところだ。

挑戦は2度目。文化、嗜好がカギ

LINEが世界の大手に対抗するのは2度目になる。

1度目は、Facebookがモバイル化に手間取っていた一瞬のスキを突き、モバイルに特化したコミュニケーションアプリLINEを一気に普及させることに成功した。

成功の理由には、スタンプなど日本やアジアの文化や嗜好を反映した機能の存在もあったのだと思う。

今度はAmazonが相手だ。タッチスクリーンからボイスへ。新しいインターフェイスを牛耳るのは、だれなのだろうか。インターフェイス大戦争が始まった。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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