Amazonが、AIを人間の親友にする?「Alexa Prize」に要注目。

AI新聞

音声アシスタントAmazon Echo(エコー)の大ヒットで、IT業界を震撼させている米Amazon。そのAmazonが次に開発しようとしているのが、人間の話し相手になってくれるロボット。そんなロボットが完成すれば、テレビ、ネットを凌駕する最強の広告メディアになり、EC事業者としてAmazonは不動の地位を得ることになる。果たして、Amazonの野望は実現するのだろうか。今秋には、その答えがでるかもしれない。

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買収企業の技術を独り占め

なぜAmazonの次の戦略が分かるのかといえば、簡単な話。彼らは、ほしい技術があれば、開発コンテストを開催するからだ。

過去には、工場内のピックアップロボットの開発コンテストを開いている。そして優れた技術や企業が見つかれば、当然Amazonは買収するつもりだ。

買収された技術や企業はどうなるのか。Amazonは、工場内の自動走行ロボットのメーカーKivaSystemsを2012年に7億7500万ドルで買収している。同社は、Gapや、Walgreenなどの大手小売チェーン数社に自動走行ロボットを提供していたが、契約期間終了後は契約更新を拒否。Kivaの最新マシンは、Amazonが独り占めする結果になっている。

それがAmazonのやり方だ。

ソーシャルボット・コンテスト

そんなAmazonが昨年9月から「ソーシャルボット(雑談型ロボット)」の開発コンテスト「The Alexa Prize」を開催している。AmazonEchoに搭載されている音声認識AI「Alexa」をさらに賢くすることを目的とした技術コンテストだ。

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これまでに22カ国から100チーム以上の大学の研究者チームが応募してきており、そのうちカーネギーメロン大学や、チェコ工科大学、プリンストン大学、カリフォルニア大学などの12チームが、スポンサードチームに選ばれた。スポンサードチームは、開発予算として10万ドルを与えられるほか、Alexa搭載デバイス、Amazonのクラウド・コンピューティング・サービス「AWS」を無料で利用できる。

スポンサードチーム12チームには選ばれなかったものの、ハーバード大などの6チームが、自費でコンテストに参加することが認められ、計18チームがソーシャルボットの開発でしのぎを削っている。

これらのチームが開発したソーシャルボットは、4月からAmazon Echoに搭載され、数百万ユーザーが実験的に利用することになる。

審査方法は、政治やスポーツ、芸能など、一般的なトピックについて20分間に渡って、人間が交わすような対話を継続できるかどうか、というもの。

4月からの各チームのソーシャルボットとユーザーとの対話データを解析し、8月には数チームに絞り込んだファイナリストが発表される。その後はファイナリストのボットのみがAlexaに搭載され、さらにデータを解析し、優勝者が11月に発表される予定。

優勝したチームには50万ドルの賞金が授与されるほか、そのチームが所属する大学には100万ドルが寄付されることになっている。

タスク型と雑談型

実は文章ボット、音声ボットに関わらず、ボットにはタスク型と雑談型の2種類がある。タスク型は、何らかのゴールに向かって、メッセージをやり取りをするもの。例えば天気予報を問えば、「今日は晴れるでしょう」と答えてくれるのは、タスク型。商品の選択を支援し、購入にまで導くというのもタスク型だ。現在AmazonEchoに搭載されているAlexaはタスク型だ。

一方で雑談型は、文字通り雑談のためのボット。雑談こそが目的で、対話の収束を目指していない。

同じボットの技術でも、実はこの2つは目指している方向も、その仕組みも全然違うものになる。

というのはタスク型だと、ユーザーとのやり取りは少なければ少ないほどいい。何往復もやり取りが続いているということは、ユーザーが目的に達していないことを意味する。

反対に雑談型は、やり取りが多ければ多いほどいい。やり取りが少なければ、話が噛み合っていない可能性があるからだ。

またタスク型のボットは、用語や情報が特定の領域に限定されることが多い。家電のECサイトのボットなら、家電製品の用語や情報だけに詳しければいい。

雑談型のボットは、話題が何になるか分からず、いろんな話ができなければならない。

つまり技術的には、雑談型のほうがタスク型の何倍も難しいわけだ。

画像認識、音声認識で一定の成果をあげたAI研究は、そのフロンティアが言語理解に移行しつつある。

そこで昨年秋ごろから僕は、日米の自然言語処理の研究者やベンチャー企業を取材して回っている。しかし「雑談はまだまだ」という意見が圧倒的に多く、「雑談型ボットの開発をいったん諦めました」というベンチャー企業の社長もいた。

大半の専門家が「無理」と判断する中で、1社だけ成功すればそれこそがブレークスルー。雑談型を完成させた企業は、一気に覇権を握ることができる。

もし近い将来に雑談型を達成できるところがあるとするならば、Amazonではないかと思う。なぜなら巨額の賞金を提示して世界中の研究者を競わせることができるのはAmazon規模の企業しか無理だし、またAmazonはAI開発に必要なデータを、数百万台のEchoから大量に入手できるからだ。

ビジネスチャンスがあらゆる領域で出現

なぜAmazonは雑談型に挑むのか。それは、ボットとの雑談の中で、ユーザーの趣味嗜好を把握できるからだ。また雑談の中で商品をレコメンドすることができれば、最強の広告、マーケティング手法になると見られているからだ。

日本のロボットベンチャーの雄、ヴイストン株式会社の大和信夫氏は、ロボットが親友もしくは親友を超える分身のような存在になると指摘している。「間違いないです。断言できます。ソーシャルロボットは人間にとってプライスレスな存在になる。そうなればビジネスチャンスは無限」「ビジネスチャンスがあらゆる産業でいきなり出現する、という感じですね」と語っている。

もしAmazonのソーシャルボット・コンテストで、雑談型のAIが使用に耐えるほどの完成度になれば、Amazonは雑談型AIの普及に力を入れてくるだろう。

Amazonは、今既にタスク型AIをサードパーティに無料、もしくは低額で提供し始めている。雑談型AIも同様に無料もしくは低額でサードパーティに提供する可能性が高い。そうなればいろいろな形状のソーシャルロボットがサードパーティから発売されることだろう。

ヴイストンの大和氏を取材したのが2015年の夏。そのときに「3年後には、ソーシャルロボットの時代になる」と予測していた。

Amazonのコンテストで優勝者が決まるのが今年11月。早ければ2018年には、雑談型AIをサードパーティに提供し始めるかもしれない。実現すれば、大和氏の予測通りということになる。

11月に発表される優勝チームの雑談ボットがどの程度の実力なのか。注意深く見守っていきたいと思う。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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