2017年はAIビジネス大爆発の年。米国、中国が大躍進、そのとき日本は?

AI新聞

 動きの速い企業は、AIビジネスの仕込みをほぼ終えた。2017年からの数年間は、AI搭載サービスや製品が市場に一斉に投入され、いろいろな業界の勢力図を塗り替えることになりそうだ。中でも動きが速いのが米国、中国。このままでは、一部企業をのぞく日本の産業界は、AI化の波に乗り遅れるかもしれない。

「5年以内に影響を受けない業界などない」

 ディープラーニングと呼ばれるAIの新技術に、世界中の研究者が衝撃を受けたのが2012年。その新技術を早速活用しようと動き出したのが、Google、Microsoft、Facebook、Amazonなどの米国大手と、Baidu(百度)などの中国大手。2013年、2014年と研究開発を続け、2015年辺りからは、研究の成果を実際のサービスに落とし込む動きも始まった。Google翻訳などは、ディープラーニングのお陰で、その精度が劇的に向上している。そうした先行事例をを見た多くの一般企業も、2015年辺りから調査を始め、2016年には研究開発に乗り出すところが増えてきた。

 そして迎えた2017年。仕込みが終わった企業から順に、AIを搭載した新たな製品、サービスを次々と発表しようとしている。AI搭載製品、サービスは今後5年間で、いろいろな業界に行き渡り、その結果、業界の勢力図を根本的に塗り替えることになるだろう。

 もちろん大本命は、自動車であり、医療、製造業といった業界だが、AIの影響力がこの3つの業界だけにとどまるわけはない。米スタンフォード大学AI研究所の元所長で、現在はBaiduのチーフサイエンティストのAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏は、「今度5年間にディープラーニングの影響を一切受けない業界があるのかどうか、学生たちと調査・議論したことがある。ある程度の規模の業界の中で、影響を受けない業界は1つもない、という結論になった」と語っている。

日本で動き出したのは一部企業のみ

 そういう意味で2017年は、本格的なAI革命の幕開けの年と言ってもいいだろう。

 しかし、それは世界規模で見た話だ。動きが速いのは、もちろん米国。そして注目すべきは中国だ。

 AI時代のリーディングカンパニー米NVIDIA(エヌビディア)の日本法人の井﨑武士氏によると、今はディープラーニングの関連技術が次々と開発されている段階。関連論文が毎日2、3本のペースで発表されているような状態だという。「中でもスタートアップが新しいアルゴリズム(計算式)を次々と生み出しています。ディープラーニングのスタートアップはもちろんシリコンバレーにたくさん存在しますが、中国にもシリコンバレーと同じくらい多くのスタートアップが存在し、新しいアルゴリズムを次々と生み出しています」と言う。

【参考記事】人工知能の未来を読みたければNVIDIAの動きを追え

 多種多様なアルゴリズムが次々と登場する中で、自分の業界に関連しそうなアルゴリズムを生み出したスタートアップと組み、そのアルゴリズムと自社が持つ豊富な顧客データなどとを組み合わせ、新たな製品やサービスを、いち早く世の中に出す。今は、そんな競争の真っ只中だ。当然、AIスタートアップを多く抱える米国と中国が、圧倒的に有利な状況だ。

 翻って日本はどうか。もちろん日本のリーディングカンパニーは、黙っていない。トヨタ、リクルートなど動きの速い企業は、AI研究所をシリコンバレーに設置するなど際立った動きをしている。製造業ではファナックが、NVIDIAと協力体制を築いた。AIとロボットで工場を全自動化してしまえば、安い人件費は、もはや競争優位性にはならない。安い人件費を求めて中国、インドに逃げていった製造業が、国内に戻ってくる可能性がある。日本の製造業が、再び世界をリードできるようになるかもしれない。今こそ勝負のときだ。

 一方でスタートアップの領域でも、国内には世界のトップレベルの企業が存在する。トヨタ、ファナックと組んだPreferred Networksは、世界の最前線を突っ走っているし、LeapMind、ExaIntelligenceなどといった骨太のAIベンチャーも登場した。

 とはいうものの、産業界全体で見れば「現段階で実際のサービスに落とし込めている日本企業は、数えるほどしかいない状態」(井崎氏)という。業界最大手はさすがに全社を挙げてAIに取り組んでいたりするが、業界2番手、3番手となると、AIに取り組んでいるのは研究所や一部部署だけ。4番手以下の企業は静観しているだけ、という業界が多い。「日本企業は、ネットでもモバイルでも海外に覇権を奪われた。AIででも、覇権を取られていいんでしょうか。とりあえず自動車、製造業のAI化を、世界に先駆けて進めることが急務だと思います」と井崎氏は力説する。

 最大の問題はAI人材の不足だ。社内にいないのであれば、当面はAIベンチャーと組むか、外国人をリクルーティングするかしかない。しかしいずれ大企業の社内にAI人材を増やす必要がある。大学教育の見直しや、企業内研修にも真剣に取り組んでいく必要があるだろう。

出遅れていても、動かなければ致命傷

 最前線にいる関係者の間では、AI革命は、インターネット革命と同等、もしくはそれ以上のインパクトを産業界に与えかねないという意見が多い。

 Ng氏は「2000年代になりインターネットビジネスに乗り遅れた企業の多くが『5年前から取り組んでればよかった』と後悔したものだが、同じようなことがAIでも起こる。5年後には『もっと早く取り組んでおけばよかった』という企業が多く出てくるだろう」と語っている。

 ExaIntelligenceの春田真氏によると、同社には多くの企業から協業の申し込みが殺到しているが、AIに対する理解が低かったり、必要なデータを集め切れていないところが多いという。「3年前から動いている企業と、これから動こうとする企業の間には、圧倒的な差がある」と言う。もはやある程度の勝負はついている、というわけだ。

「しかしだからと言って、動かないわけにはいかない。今動き出さなければ、この傷は致命傷になる。今からでも動き出すしかない」と語っている。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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