人工知能はデータを富に変えられない、人間の「欲」が不可欠だ

AI新聞
GoogleやAmazonなどインターネット産業での勝ち組企業の最大の勝因は、データを多く集めたことにある。そういう認識が広まっている。また人工知能が急速に浸透し始める中で、データの重要性を認識する人は増える一方だ。今後ネットの影響があらゆる産業へと広がる中でデータとどう付き合うかが、多くの産業においてビジネスの勝敗を決めるようになるのは間違いないだろう。時代の変わり目だ。この時代の変わり目をチャンスととらえ、日本経済の再生をかけて国や民間企業などが、データを交換、売買するような仕組み作りを急いでいる。 そんな中で、東京大学の大澤幸生教授は「新しい仕組みの中で最も重要なのは、人間の目的意識を発掘するプロセスをどう作り込むかだ」と主張する。同教授は、データを駆使するイノベーションシステムとしての「データ市場」という概念を、2013年から世界に先駆けて提唱し展開していることで有名な研究者。同教授によると、人は肉体を持ち、幸せに健康に生きたいという「欲」を原動力として生きる存在。データを核にした新しい社会の仕組みを構築しようという中で浮かび上がってくるこの人間の欲は、時に浅く、時に深く、日夜変化し、増大してゆく。人工知能の進化がどんなに喧伝されようとも、この欲の進化に追いつくことは難しいはず。「新しい社会の仕組みは、計算機ではなく人がリードしなければならない」と大澤教授は言う。

データ共有で向上する日本の経済力

データの重要性は、広く認識されつつあるのだと思う。Googleが膨大なデータから、検索ワードに関連した結果を表示し、Amazonが膨大な購買履歴を解析することで「この本を買った人は、こんな本も買ってます」と推薦してきてくれる。GoogleやAmazonのサービスを使っている人であれば、彼らが持つ膨大なデータが彼らのサービスの使い勝手をよくしていることを十分理解できるだろう。 良質のデータを多く集めたサービスの使い勝手がよりよくなり、その結果、より多くのユーザーが集まって良質の利用を行い、また良質の多くのデータが集まる。正のスパイラル。二番手との差は開く一方だ。 これがインターネット産業の必勝の方程式だった。データ解析を人工知能が担うようになり、この方程式はますますパワフルになってきている。 そして今、ネットがあらゆる産業の基幹インフラになろうとする中で、この方程式があらゆる産業に当てはまろうとしている。あらゆるものがネットにつながる時代。IoT(Internet of Things モノのインターネット)の時代に入る中で、自動車や製造業など日本の基幹産業にも、この方程式が当てはまるようになる。命運を分けるのは、データをどう選び、どう集め、どう利活用するかだ。 GoogleやAmazonなどインターネット産業での勝ち組企業の最大の勝因は、データを多く集めたことにある。そういう認識が広まっている。また人工知能が急速に浸透し始める中で、データの重要性を認識する人は増える一方だ。今後ネットの影響があらゆる産業へと広がる中でデータとどう付き合うかが、多くの産業においてビジネスの勝敗を決めるようになるのは間違いないだろう。時代の変わり目だ。この時代の変わり目をチャンスととらえ、日本経済の再生をかけて国や民間企業などが、データを交換、売買するような仕組み作りを急いでいる。 そんな中で、東京大学の大澤幸生教授は「新しい仕組みの中で最も重要なのは、人間の目的意識を発掘するプロセスをどう作り込むかだ」と主張する。同教授は、データを駆使するイノベーションシステムとしての「データ市場」という概念を、2013年から世界に先駆けて提唱し展開していることで有名な研究者。同教授によると、人は肉体を持ち、幸せに健康に生きたいという「欲」を原動力として生きる存在。データを核にした新しい社会の仕組みを構築しようという中で浮かび上がってくるこの人間の欲は、時に浅く、時に深く、日夜変化し、増大してゆく。人工知能の進化がどんなに喧伝されようとも、この欲の進化に追いつくことは難しいはず。「新しい社会の仕組みは、計算機ではなく人がリードしなければならない」と大澤教授は言う。

データ共有で向上する日本の経済力

データの重要性は、広く認識されつつあるのだと思う。Googleが膨大なデータから、検索ワードに関連した結果を表示し、Amazonが膨大な購買履歴を解析することで「この本を買った人は、こんな本も買ってます」と推薦してきてくれる。GoogleやAmazonのサービスを使っている人であれば、彼らが持つ膨大なデータが彼らのサービスの使い勝手をよくしていることを十分理解できるだろう。 良質のデータを多く集めたサービスの使い勝手がよりよくなり、その結果、より多くのユーザーが集まって良質の利用を行い、また良質の多くのデータが集まる。正のスパイラル。二番手との差は開く一方だ。 これがインターネット産業の必勝の方程式だった。データ解析を人工知能が担うようになり、この方程式はますますパワフルになってきている。 そして今、ネットがあらゆる産業の基幹インフラになろうとする中で、この方程式があらゆる産業に当てはまろうとしている。あらゆるものがネットにつながる時代。IoT(Internet of Things モノのインターネット)の時代に入る中で、自動車や製造業など日本の基幹産業にも、この方程式が当てはまるようになる。命運を分けるのは、データをどう選び、どう集め、どう利活用するかだ。 前出の経産省主催のデータ駆動型(ドリブン)イノベーション創出戦略協議会は2014年6月に設立され、200社以上が参画。65社がデータジャケットを登録し、データの利活用方法について検討を行う一連のワークショップを開催している。 またデータ利活用に関心のある民間企業の連合体であるデータ・エクスチェンジ・コンソーシアム(DXC)でも、2014年度はデータジャケットの入力と可視化を含む計6回のワークションプを実施している。

「人間は考えなくてよくなるはウソ。実際は逆」

ただ企業が集まったワークショップでは、他社の動きの様子見にとどまったり、ブレーンストーミングに終始するケースが多いようだ。大澤教授は、「この方法はブレーンストーミングではありません。大事なのはデータと交わり、データを介して人と交わることによってゴールを定め、ゴールまで行くという目的志向。それが可能な仕組みなんですから」と指摘する。 大澤教授の研究室が中心になって行うIMDJ(Innovators Marketplace on Data Jackets)と呼ばれるデータ市場のワークショップは、ゴールに達するまで徹底的に議論し、実行する方法だ。 例えば、安全な都市生活を検討することを目的にしたワークショップでは、シナリオマップにおいて「バスの運行状況」というデータと「モニタリング画像」のデータを組み合わせれば、道路のでこぼこ具合などが、バスの安全運行や運行の遅れにどのような影響を与えるのかを確認できるだろうという提案がなされた。その中で、歩行者が安全に歩けることがバスの運行遅れを防ぎ安全性を高めるのではないかという議論に発展。ただ歩行者の安全を守る街路灯がどこに存在し、どれだけ明るいのか、街路灯の所在情報を示す公開データは、大澤研究室のある東京都文京区にはない。そこで文京区役所と都庁に学生が直接出向き、ワークショップの上記の結論を説明した。出向いたのが教授ではなく学生だったにも関わらず、結果として、提供の難しかった街頭所在データの提供を受けることができた。 これでバスのルートのどの辺りが明るく、どの辺りが暗いのかということをより正確に可視化することに成功した。しかもこの結果は、歩行者にとって安全な歩行経路を得るために役立つという評価実験の結果も得られた。これで、時間通りにスムーズに運行するバス運行ルートの実現という目的に向かっての対処方法も見えてくる。「もともとあったデータジャケットを組み合わせるだけではなく、もっと新たなデータを参加者が提案し、実際に新しいデータの入手と可視化結果の提供に達した事例です。重要なのは、このように入所困難であったデータを入手するための利用目的を明確に打ち出すこと。その後の分析や可視化は至ってシンプルで、高度な人工知能が出る幕など滅多にない」と、大澤教授は言う。同教授の博士論文は、データを説明する人工知能の高速自動推論を扱ったものだった。本来人工知能を専門としてきた研究者が、人工知能より人間の役割の重要性を指摘しているわけだ。 「人工知能の進化でデータから自動的にいろいろな知識が発見されるようになるので、自分たちは何も考えなくてもよくなると考えている人が多いが、事実はまったく逆。さまざまなデータが出てくる中で、人間が判断しないといけないことはむしろ増える」。もちろん分析するデータがある程度定まれば、人工知能が適切に組み合わせたり適切に分析してくれる。ただ何のためにデータを分析するのか、そのためにどのようなデータを選んで集めるべきか、というような「意思」は人間が持たなければならない。

人間の「欲」を自覚することが不可欠に

「ではその意思はどこから出てくるのかというと、取りも直さず人間の欲であったり、欲を持った顧客を満足させなければならない仕事におけるミッションだったりする。そこは、欲の根源である肉体を持ち、ゆえに欲というものを知っている人間にしかできない。人間が明確に目的意識を持つということは、欲を自覚することであり(人工知能が普及する)これからの社会において非常に大事になる」と大澤教授は指摘する。 データの中には、既に存在しているデータ、集計しやすいデータ、機械が理解しやすいデータがある。そうしたデータだけを人工知能に与えて解析させれば、社会の一部の側面だけを映し出す結果になりかねない。それを基に、予測、提言させれば、社会が間違った方向に進む恐れさえある。「特に、ある新しいアルゴリズムをハイライトしてしまうような人工知能研究者の提言を重視し過ぎると、表面的な合理性だけを追求し、艶も色気も褪せた多様性のない社会になるかもしれません」。そういうことが起こらないようにするには、人間がしっかりとした意識を持たなければならないし、人間の意思を組み込むような社会システムのあり方を考えていかなければならない。 「データが溢れる社会になっていくのは間違いない。しかし大事なのは、まず人の欲を考えること。機械が読める情報が人間の意思決定を先導してしまえば、人間が幸せになれない」。大澤教授のこの言葉を胸に刻んで、人工知能の利用がさらに広がる時代に向けて進んでいきたいと思う。

Newsweek日本版より転載 http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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