社会人再教育の時代とAmazonの先行事例

AI新聞

 

 

技術革新が加速度を増し、就職の需給バランスが大きく崩れる近未来。常に新しいスキルを学び続けなければ、生き残れない時代がやってくる。そんな時代には、社会や企業が、社会人の再教育を支援する仕組みが不可欠になっていくはず。Amazonの先行事例を調べてみた。

 

米労働局によると、米国内の失業者数は600万人。一方、募集件数は740万人。ある意味、仕事はあり余っているわけだ。それでも街には失業者やホームレスがあふれているのは、企業が求めるスキルと、失業者が提供できるスキルのミスマッチが原因だ。

 

個々人が新しいスキルを身につけ続けなければならないし、勉強したい人を社会が支援し続けるべきなんだと思う。それは個人の課題でもあるし、社会課題でもある。

 

Amazonはこの課題に立ち向かうべく、2025年までに7億ドルをかけて10万人の再教育を支援する計画「Upskilling 2025」を発表している。

 

計画によると、再教育支援プログラムは全部で6つ。社内のエンジニアにAIのスキルを教える機械学習大学と呼ばれる教育プログラムを始め、大学や専門学校の学費の95%を支給する取り組みなどがある。

 

興味深いのは会社の利益だけを追求しているのではなく、個人や社会の課題を解決しようとしているところだ。

 

機械学習大学は社内エンジニア向けのオンライン授業だったが、最近はYouTube上で無料公開しており、学びたい人は誰でも無料で受講できる形になっている。

 

また95%の学費を支給してくれる「Amazon Career Choice」と呼ばれるプログラムは、Amazonの業務以外の分野の勉強も支援する。Amazonの担当者は「新しいスキルを身につけてAmazonで働き続けてくれてもいいし、転職してくれてもいい」と語っている。転職に必要なスキル獲得を支援しているわけでもある。

 

ただし支援するのは、社会が必要としているスキルだけ。Amazonでは、自社内のスキルのニーズに加えて米労働局のデータなどを考慮し、必要とされているスキル、今後必要性が高まると予想されるスキルに対して学費を支給している。現在、同プログラムが支援しているのはヘルスケア、運輸、機械工、ITサポート、秘書、法律事務、ITセキュリティ、ネットワーク技術者、ソフトウエア開発などの37分野の講座。

 

また倉庫などの65カ所の大型施設内に教室を設け、一部講義は就業時間内に受講できるようにもしている。

 

米商工会議所基金のJason Tyszko氏は「大事なのは新しい技術だけではなく、経済の動向にも合致したスキルを学ぶこと。Amazonは企業としての責任ある役割のあり方を示してくれている」と語っている。

 

Amazon Career Choiceは、2012年にスタート。これまでに13カ国で2万5000人が受講している。

 

Upskilling 2025では、こうした既存のプログラムを拡充し、再教育支援を加速させる計画だ。

 

コロナで打撃を受けた業界や企業、個人への支援は、あくまでもその場しのぎの対処策に過ぎない。パンデミックの根本的な原因が経済発展である限り、COVID-19が収束したとしても、次のパンデミックがまたすぐに襲ってくる可能性がある。(【関連記事】コロナ禍の根本原因は配慮なき経済発展)

 

職を失った人たちへの再教育支援を、真剣に検討し始めるべきではないだろうか。

 

ピンチをチャンスに変えることができれば、これまで以上の幸せが待っているに違いないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

  • Home
  • AI新聞
  • 社会人再教育の時代とAmazonの先行事例

この機能は有料会員限定です。
ご契約見直しについては事務局にお問い合わせください。

関連記事

記事一覧を見る