米シリコンバレーが新たなバズワード「Web3」にわいている。ベンチャーキャピタルの資金や、Google、Amazonなどのテクノロジー大手の人材がWeb3関連のスタートアップに流れ込んでいるかららしい。(関連記事 New York Times The New Get-Rich-Faster Job in Silicon Valley: Crypto Start-Ups )Web3とは、暗号通貨やブロックチェーンなどの技術でインターネットを根本的に構築しなおそうという動きで、最初にこの言葉が登場したのは2014年のころ。今になってなぜこの言葉が盛り上がりを見せているのだろう。
Web2.0を「ソーシャル」から「中央集権型」に再定義
Web3とはWeb2.0の次のフェーズの概念のようだ。(とはいえWeb3.0とは言わずに「ウェブスリー」と発音するらしい)。Web2.0とは2004年ごろに登場したバズワードで、簡単に言えばソーシャルを意味していた。それまでのウェブ、つまりWeb1.0は、ウェブサイトが情報を掲載し、ユーザーはそれを見るだけという情報の一方通行だった。代表例はYahoo!などのポータルサイトだ。
そこに登場したのが、ブログやTwitter、Facebook、YouTubeなどのユーザーが発信する情報をベースにしたソーシャルメディアだ。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)とも呼ばれる。ネット上の情報は双方向になり、SNSなどはWeb2.0型のサービスと呼ばれた。私自身もこのころ、Web2.0というバズワードを使ってかなり多くの記事を執筆したことを覚えている。
ところが「Web3はどのようにインターネットを再構築するのか」という副題のついたShermin Voshmgir氏著「Token Economy」 という本を読んでみると、GoogleやAmazonなど、SNSとは関係のない会社も古いタイプの企業として列記している。そしてよく見るとそうした企業のことはWeb2.0ではなく、Web2と形容している。
つまりどうやらWeb3は、Web2.0の次のフェーズを指すのではなく、まったく新しい概念のようだ。この本によるとWeb1はシンプルなディレクトリーや掲示板の時代で、Web2はSNSやEコマース、検索エンジンの時代。そしてWeb2とWeb3の最大の違いは、中央集権かどうか。つまりテック大手が圧倒的な力をユーザーに対して持っているのか、ユーザーの方に主導権があるのかどうか、がWeb2とWeb3の違いになるようだ。
ソーシャルから暗号通貨、ブロックチェーンの時代への移行という意味ではなく、中央集権から非中央集権に時代は移行しようとしている。Web3の提唱者たちは、そう主張するわけだ。
Web3で、壊れたネットを修復
Voshmgir氏によると、「今のインターネットは壊れている」という。ユーザーは自分たちのデータをコントロールできないし、ペイメント機能なども設計思想の中に入っていない。設計思想の中に入っているのは、途中の回線やコンピューターが故障してもデータを迂回させて目的地に届ける、という基本的な役割だけ。情報を送ったのがどこのだれかも分からない。
そこでネット企業のほうで、ユーザー情報をデータベースに記録。セッションが途絶えても元のページを開くようにしたり、購入ごとに住所、氏名を再入力しなくていいようにした。そのこと自体は非常に便利なのだが、その結果大手ネット企業にはユーザーの個人情報が蓄積された。またそれをベースにした広告マーケティングを通じて、ネット企業が膨大な収益を得るようになった。
Web3の提唱者たちは、インターネットの基本設計の部分に、ユーザーを特定する機能を持たせるべきだと主張する。そうすれば、ユーザー一人一人が自分の情報のどの部分をだれに教えるのか、ということを決めることができる。著作物の違法コピーもなるなるだろうし、フェイクニュースの発信も難しくなる。心ないコメントや誹謗中傷の書き込みも少なくなるかもしれない。こうしたことがブロックチェーンなどの非中央集権技術で可能になるわけだ。
志がいいだけではユーザーは来ない
こうした話は、暗号通貨やブロックチェーンといったバズワードが最初に流行った数年前にもあった。Web2企業が提供しているようなeコマースやマーケットプレイス、オークション、SNSを、ブロックチェーンなどの非中央集権テクノロジーで実装したサービスが幾つ登場した。しかし、結局メジャーにならずに終わってしまった。
非中央集権という志はいいのだが、ブロックチェーンなどの技術は舞台裏の技術なので、見た目や使い勝手はWeb2企業と変わらなかった。いやWeb2企業のサービスのほうが、細部まで気配りされていて、データ量も多いので、使い勝手は上だった。
志がよくても、使い勝手がいまひとつ。なので、ユーザーはWeb2サービスからWeb3サービスに鞍替えすることはなかった。
高まる中央集権企業への不信感
それがなぜ今ふたたび、非中央集権サービスに注目が集まっているのだろう。
日本人ユーザーにはピンとこない話だが、今米国ではFacebookなどの SNSに対して批判の嵐が起こっている。反米組織などが米国の世論を混乱させる目的でフェイクニュースをSNS上で拡散したり、マーケッターがユーザーの意見を特定の方向に誘導したり、ネット上での青少年のいじめの問題が起こっている。そうしたSNSの悪用に対して、FacebookなどのSNSは有効な手段を講じていないという批判だ。
ワシントンポスト紙などがネットユーザー1000人以上に行ったアンケート調査で、「ネット上のサービスが個人情報を正しく扱っていると、どの程度信用していますか」という問いに対し、Facebookや、TikTok、インスタグラムなどのSNSに対し「まったく、もしくはあまり信用していない」と答えた人が「かなり信用している」と答えた人を大きく上回っている。特にFacebookに関しては「かなり信用している」人が20%だったのに対し、「まったく、もしくはあまり信用していない」と答えた人は72%もいた。AmazonやAppleでさえも、「信用してる」と「信用していない」が同等程度だった。
このテック大手に対する不信感がWeb3への期待を高め、Web3がホットなバスワードとして急浮上している原因になっているようだ。
この勢いでWeb2企業への不信感がより一層高まれば、本格的なWeb3への移行が始まるかもしれない。
インターネットが登場した約25年前には「中間業者が中抜きされる」という主張があった。しかし実際にはネット企業が、オフラインの中間業者に取って代わって、新たな中間業者になっただけだった。
Web3は、今度こそ本当に中間業者を不要にしようとしているのかもしれない。AmazonやGoogleが中抜きに遭う。そうなれば、物凄いパラダイムシフトだ。
普及するかは大手への反発と使い勝手がキー
しかし本当にそうなるのだろうか。Web3が普及するかどうかは、Web2企業への反発と、Web3サービスの使い勝手が鍵になる。前述したように、使い勝手はWeb2サービスがまだ上。Voshmgir氏によると、Web3はスピードやパフォーマンスでも課題が残っている。
それに大半の暗号通貨は一部富裕層が独占しているし、Web3ベンチャーはWeb2企業で大儲けした有名ベンチャーキャピタルが後押ししている。Web2のテック大手が弱体化したとしても、こうした富裕層が新たな支配者になり、ユーザー主導の非中央集権は結局実現しないのではないか。そういう批判も出てきているようだ。
Voshmgir氏は「将来のインターネットが非中央集権に向かっていることは、ほぼ間違いない。しかし中央集権システムがすべて淘汰されることはないだろう。特定の用途においては中央集権システムの方が優れているから」と語っている。
果たしてこの新たなバスワードが、どの程度の勢いを得ていくのか。しばらくウォッチしていきたいと思う。