外食産業でもコロナをチャンスに 100時間カレーが大躍進

AI新聞

 

コロナ禍が最初に壊滅的打撃を与える業界の1つが外食産業と言われるが、この未曾有の大ピンチにあえて店舗数を大きく伸ばしている企業がある。「100時間カレー」のブランド名でカレー専門店を展開する株式会社ARCSだ。同社によると、同社はデリバリーに対する需要拡大を見込んで過去7ヶ月間にデリバリー専門店を70店舗出店。カレー専門店としては店舗数で国内2位に成長したという。

 

先月末に久しぶりに大阪の実家に里帰りした際に、出前注文アプリの「出前館」で実家周辺を検索したところ、関東で食べたことのある「100時間カレー」の配達専門店を発見。日本最大級のカレーの祭典「神田カレーグランプリ」で優勝経験を持つカレーだけに、喜んで注文した。時間通りに配達されたカレーは、以前食べたのと同じ味で、コクがあって辛過ぎず、年老いた母も「美味しいねえ」と喜んでいた。

 

実家は古びた住宅街にあり、最寄駅の周辺には飲食店が、2、3店舗ある程度。100時間カレーの店舗ってどこにできたのだろう。そう思って、Google地図検索で調べたところ、同店舗は駅からかなり離れた住宅街の真ん中に位置している。ストリートビューを使って店舗の写真を見ようとしたら、出てきたのは古びたシャッターが半分閉まった状態の、水道工事か何かの工務店の写真だった。

 

本当に100時間カレーの店舗なのだろうか。心配になって100時間カレーのウェブサイトを確認したら、大阪に店舗はないことになっている。100時間カレーの名前をかたった悪徳業者なのだろうか。薄汚れた工務店の店内で調理しているのなら、衛生面で非常に心配だ。

 

そこで同サイトから同社に直接問い合わせてみた。すぐに「弊社の店舗で間違いありません。出店ラッシュでサイトの内容変更が追いついておらずご迷惑をおかけしました」との返事がきた。コロナ禍でデリバリー需要が急増することを見込んで、攻めの戦略に出たということだった。駅から離れた場所にある閉店した工務店の跡地なら、家賃も激安だろう。また住宅街の真ん中に位置することは、デリバリー業務にはかえって好都合かもしれない。

 

テレビのニュースを見れば、コロナで売り上げが激減した飲食店のインタビューを頻繁に見かける。「元に戻ってほしい」。切実な思いだ。気の毒には思うのだが、嘆いているだけでは事態は変わらない。国や自治体に補償を求めても、それだけではいずれ立ち行かなくなるのは見えている。米国では飲食店の6割が閉鎖に追い込まれたという。

 

そんな中で100時間カレーの大躍進は、ピンチをチャンスに変えた好例だと思う。外食産業だけの話ではない。いずれコロナ禍に端を発した不景気は、全ての業界を飲み込むことだろう。しかしどんな時でも、時代の流れを読み、常に前向きに生きようとすれば、チャンスの扉が開くかもしれない。そんなことを100時間カレーから教わったような気がした。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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