削除記事が示すChatGPTの行手に広がる暗雲

AI新聞

(写真はHumanLoopのサイト

米情報サイトHumanLoopに、ChatGPTの開発元であるOpenAIのSam Altman氏のインタビュー記事が掲載された。OpenAIの今後の開発計画や同社が抱える課題についてAltman氏の率直な意見が述べられている好記事だった。この記事をベースにチャット型AIの未来を占う原稿を書こうと思って、数日後に再びこのサイトにアクセスした。ところが「このコンテンツはOpenAIの要請により削除されました」という一文とともに、該当記事が削除されていた。

この記事の何が問題だったのだろう。なぜOpenAIはこの記事の削除を要請したのだろう。

記事の全文を見ることはもはや不可能だが、記事の骨子をtwitterに投稿している人が何人かいた。そのうちの一人、チャエンさんのツイートによると、Altman氏は、AIに不可欠の半導体GPUの供給が逼迫しているため、OpenAIの技術開発が思うように進んでいない現状について語ったようだ。OpenAIは、コンタクトウィンドウの拡大(入力できるデータを増やすことでAIの性能を向上させる仕組み)や、マルチモーダル化(動画や音声など、文字情報以外のデータを取り扱えるようにすること)などの開発計画を進めていたが、GPUを思うように入手できないことから、こうした開発が遅れてしまう可能性があるとAltmanは語ったようだ。

GPU不足は確かに大きな問題で、大手半導体メーカーのNVIDIAが急ピッチでGPUを生産し続けているが、それでもAIに対する需要に追いついていないようで、テック大手はどこも独自半導体の開発に乗り出した。

例えば報道によると米Microsoftは、半導体メーカー大手Advanced Micro Devices社がAI向けの半導体を開発するプロジェクトに協力。20万ドルの資金援助と数百人のエンジニアを同プロジェクトに提供しているという。またMeta(Facebook)もAI向け半導体を独自開発したと発表。Amazonも学習用と推論用の2種類の半導体を開発し、同社のクラウド・コンピューティング・サービス上で顧客に提供すると、今年第一四半期の決算発表会の場で明らかにした。

中でも注目は、今日の言語AIのブームのきっかけとなる技術transformerを開発したGoogle。transformerの開発者の一人、Aidan Gomez氏によると、Googleはtransformerの性能を最大限に引き出せるようにと、自社開発の半導体TPUの改良を続けているという。

GPU不足が続く中で、AIモデルというソフトウエアの開発競争から、AIモデルを動かす半導体というハードウエアの開発競争に移行したわけだ。テック大手が資金力や組織力を武器にAI用半導体の自社開発に乗り出す一方で、テック大手に比べると小さな所帯のOpenAIがまともに対抗できるわけもない。生成系AIの開発競争で先陣を切ってきたOpenAIだが、ここにきてそのイノベーションの速度が減速する可能性が出てきたわけだ。テック大手との競争が激化する中で、世間一般にそのような印象を持たれてはまずい。そう考えて、インタビュー記事の削除を要請したのではないだろうか。


しかしもしその読みが当たっているのなら、事態はかなり深刻と言えそうだ。生成AIをめぐる業会勢力図がまたしても塗り替えられる可能性が出てきた。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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