メタバースの第一人者に懐疑派の僕が議論を吹っかけてみた

AI新聞

先日、ExaBaseコミュニティ主催の「大企業にとってのメタバース、Web3」というセミナーに参加、講演者の株式会社gumiの創業者の國光宏尚氏とお話する機会があった。國光氏は、早くからメタバース、Web3関連の海外スタートアップに出資しており、現場の情報を誰よりも詳しく入手している。國光氏著の「メタバースとWeb3」の売れ行きも好調のようで、恐らく日本人で一番、メタバース、Web3の現状を理解している人物だと思う。

 
 
國光氏は古くからの友人で、これまでメタバース、Web3に関してFacebook上で意見を交換してきた。Web3に関しては、「Web3は技術の話ではなく、価値観変化の話」ということで、國光氏とは意見が一致していたんだが、メタバースに関しては、メタバース推しの國光氏と、懐疑派の僕との間で意見が分かれていた。
 
なので今回のセミナーで、その部分を少し詳しく聞いてみた。結論としては、メタバースをハードとしてとらえるか、ソフトとしてとらえるかの違いが、意見の違いを生んでいることが分かった。
 
國光氏は、メタバースをVRゴーグル、ARメガネといったハードの進化としてとらえていた。僕はメタバースを、ハードには関係なく、パソコンでもアクセスできる仮想空間というソフトとしてとらえていた。
 
なので僕からすれば「(10年以上前に流行って、そして廃れていった)セカンドライフと何が違うの」という疑問になる。
 
それに対し國光氏は、VRゴーグルやARメガネならではの機能を活かさないようなメタバースは、セカンドライフと同様に、一時の流行に終わるという考えで、すべてのメタバースを肯定しているわけではなかった。長期傾向としてメタバースが有望だというのが彼の考えで、長期傾向であるならば僕も完全同意。なので、意見に相違はないという結論になった。
 
國光氏の「その技術ならではの機能を最大限に活かさないプロダクトは全部だめになる」という考えは僕も賛成。國光氏は「Web3が流行ってきたので、いろんなところにブロックチェーンを使おうとしているけど、ブロックチェーンならではの機能を活かすために作られたプロダクト以外は全部失敗する」とはっきりと断言していた。
 
「暗号通貨やNFTへの注目は投機が中心なので、いずれ価格や注目度が下落する。なのに有望技術のように持ち上げるのはよくない」という僕の意見に関しては、「人気があれば上がる、なければ下がる。それだけのこと。別にそれでいいじゃないか」というのが國光氏の意見。ギャンブル好きの人が得をしたり損をしたりするのは、ギャンブル好きの人たちの問題。そんなことよりも、騒ぎがひと段落したときのテクノロジーの真価に注目しておけばいい、というのが國光氏の考えのようだった。
 
ということで僕と國光氏の意見にほぼ違いがないことが分かったんだけど、2つほど考え方が少し異なるところがあった。
 
國光氏は、ハードウェアをベースに今後の進化を読もうとしている。パソコンからスマホ、その次にくるのはVR、ARデバイス、という考え方だ。
 
その読みには僕も基本同意なんだが、ハードをベースに未来を読むという手法自体に疑問を感じる。というのはスマホというデバイスは秀逸で、スマホを超えるデバイスはなかなか出てこないだろうと思うからだ。ARグラスは一部の特別なユースケースに使われる以外、スマホ並みには普及しない。スマホを超えるデバイスというのは、コンタクトレンズ型のディスプレイのように、一日中つけていても違和感のないデバイスになると思うし、そうしたデバイスはあと10年以上は出てこないように思う。
 
ではその間にテクノロジー業界にイノベーションが起こらないかというとそんなことはなく、ハード以外の領域でいろいろなイノベーションが今後も起こり続けることだろう。AIもブロックチェーンも生活を変える大きなイノベーションだが、ハードのイノベーションではない。スマホの次ばかりに注目していると、ソフトの次のイノベーションを見過ごしてしまわないだろうか。
 
まあ國光氏に関してはそういう心配は不要で、VR、ARというハードのイノベーションに注目しながらも、Web3というソフトのイノベーションにもしっかりと投資している。
 
もう1つの違いは、メタバースの実在感について。大事なのは「そこに本当に相手がいる感覚」だと國光氏は言う。今後メタバースの実在感がますますリアルになっていき、人類は移動する必要がなくなる、とまで言う。自動車産業に関する質問に対しても「未来は明るくない」と言い切った。
 
僕自身はこの点に関してはよく分からない。これまでWearable Expo TokyoのMCの仕事をいただいたり、VRの最前線に触れさせていただくことが多かったが、多くの人が「これはすごい。これはリアル」と興奮するサービスやプロダクトを実際に試してみると、がっかりすることのほうが多かった。いやガッカリの連続だった。Facebookのメタバースにはまだ触れたことはないが、今回もがっかりするような気がして、試してみる気になれない。メタバースで人間の五感に対する刺激を完璧にリアルに近づけることができるようになるまで、まだまだ時間がかかる。なので、メタバースで実在感を感じれるようになるのは相当先のように思う。
 
ただこれは個人差があるのかもしれない。僕は他の人に比べて感受性のセンサーが敏感で、ちょっとしたことでも違和感として感じ、実在感を感じ得ないのかもしれない。
 
ということで少々の見解の違いはあるものの、國光氏の意見は十分に理解できた。僕の考えとの間に大きな相違はなかった。
 
なので結論としては、やはりVRはゲームが中心で、これから発売になるVRゴーグルのおかげでVRゲームはかなり盛り上がることだろうと思う。
 
一方でARグラスは世間の注目を集めるものの、ユースケースは一部業界に限定され、スマホを超えるデバイスになることはしばらくはない
 
ハードの進化はそんな感じだが、ソフトの進化はブロックチェーンのおかげで新しいサービスが次々と登場してくるだろう。注意すべきはWeb3が「行き過ぎた資本主義を是正したい」という価値観変化であるということ。「行き過ぎた資本主義を是正する」ためのサービス、プロダクト、企業に、どれだけの支持が集まるかが要注目ポイントだと思う。
 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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