米国最大のハブ空港を目指す。1989年に米コロラド州デンバー市がデンバー空港の改築工事に取り組んだときの目標だ。
ニューヨークタイムズによると、改築工事の最大の目玉は、荷物の運搬システムの全自動化。チェックインカウンターで係員がスーツケースにタグを貼り付けると、あとは空港の3つのコンコースの地下に縦横無尽に張り巡らされた全長26マイルのベルトコンベアと自動運転カートによって荷物が運搬され、さらには飛行機の貨物室に積み込まれるというものだった。荷物の破損、紛失もゼロになり、ターンテーブルで荷物を待つ時間も大幅に短縮されるという。
世界でも類を見ないハイテクシステムで、これを導入することで短距離フライトなら40分から一時間、国際線などの長距離フライトなら数時間かける荷物の積み下ろしを、30分に短縮させるという。これによって発着便数を増やし、年間利用者を5000万人から1億人に倍増させる計画だった。
ところが工事はトラブル続き。計画よりも16ヶ月遅れた1995年に完成したが、工事費が膨れ上がり、その後の修理やメンテナンスに膨大なコストがかかったという。
にもかかわらず稼働できたのはユナイテッド航空の1つのコンコースの荷物の運搬だけ。しかも間違いだらけで、人手による仕分けのほうがよほど間違いが少なかったという。また飛行機に積み込む機械に関してはまったく作動せず、結局作業員が手作業で積み込んだらしい。
最終的にユナイテッド航空は、このシステムの利用を中止し、人手による元のやり方に戻った。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の大失敗の一例だ。
なぜこのような失敗が起こったのだろうか。
P&GのDXプロジェクトを成功させたTony Saldanha氏が書いた「Why Digital Transformation fail?」という本によると、空港のDXを1つの大きなプロジェクトとして実行したところに問題があるという。
同氏によると、DXプロジェクトは幾つもサブプロジェクトに小分けにすべきで、デンバー空港の場合なら1つのコンコースの中の1つの航空会社の電子タグ発行システムの構築にまず取り組み、それが成功してから他の航空会社、他のシステムといった具合にサブプロジェクトを増やしていくほうが上手くいったのではないかという。
そうすることで失敗した場合のリスクが少なくて済む上、失敗から学ぶことで次のサブプロジェクトが成功する確率が高まるという。
また比較的簡単なサブプロジェクトを短期間で完成させることで、DX推進チームの自信につながり、スピード感や勢いを増すという効果もあるという。
21世紀に入り、技術革新は加速度を増している。多くの企業や組織にとってDXは、技術革新に合わせて永遠に続けなければならない通常業務になってきているのだと思う。それを1つの一過性の機関限定プロジェクトとして受け止めているところに、根本的な問題があるように感じた。
【セミナーのお知らせ】
なぜ7割のDXが失敗するのか。
2020/11/13(金) 16:00 – 17:00
P&Gの元IT部門の副社長Tony Saldana氏が書いたDXのノウハウ本「Why Digital Transformations Fail(なぜDXは失敗するのか)」。米国で発売されて1年が経ち、今だに米Amazon.comで部門ベストセラー1位を保っていますが、残念ながら日本語には訳されていません。
この本の中には、P&GのDXを成功に導いた哲学や手法に加え、米国の大企業や政府機関のDXの失敗例が多数取り上げられています。著者のSaldana氏によると、DXプロジェクトの7割が失敗に終わっているというのです。
失敗事例の轍を踏まないようにDXプロジェクトを進めるには、どうすればいいのでしょうか。
このセミナーでは、本の中で紹介されている事例や同氏による分析結果を重点的に説明することで、原書を読まなくても1時間で重要ポイントを学んでいただけるように工夫してお話したいと思っています。
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