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空飛ぶ自動車の実用化に向けた動きが始まった理由

  • 2020.11.17

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12/4に予定しているセミナー「産業界に破壊的影響を与える、AIの次の技術群」で僕が言いたいのは、AIを始め、VRや新素材、ブロックチェーンなどの破壊的技術が重なり合って融合し、びっくりするような技術革新の波が今後次々と押し寄せてくる、ということ。なのでデジタルトランスフォーメーション(DX)こそが経営者の最大の仕事になり、経営者は各技術の概論を理解し最新のビジネスモデルに精通する必要がある、というのが僕の主張だ。

 

すぐそこに見えている、びっくりするような技術革新の波はいろいろあるが、その1つの例として「空飛ぶ自動車」を挙げてみよう。空飛ぶ自動車は、英語ではElectric Vertical Take-off and Landing vehicles(垂直に離着陸する電動の乗り物)と表記され、略してeVTOLと呼ばれている。日本語では、国交省や経産省が「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」という表現に定め、今後都市部でのタクシーサービスのほか、離島や山間部の新たな移動手段として普及させようと、企業への支援を強化している。

 

空飛ぶ自動車はいろいろなSFの小説や映画の中で未来の乗り物として取り上げられてきた。ここにきて実用化に向けた開発が始まったのは、どうしてだろうか。

 

それは先に書いたように、1つでも産業界に破壊的影響を与えるような技術が、束になって、融合し合って幾つもの大きな波を起こしているからだ。

 

eVTOLは回転翼で上昇するので、ヘリコプターのようなものだ。ただヘリコプターは人々の主要な移動手段にはなりえていないが、eVTOLは人々の「足」いや「翼」になるのは間違いない。なぜなら、「安全性」「ノイズ」「コスト」の3つの面で、ヘリコプターをはるかに凌ぐからだ。

 

ヘリコプターは巨大な回転翼1つで上昇する。1つしかないので、回転翼が空中で故障すれば墜落してしまう。1つの回転翼で浮上しようとするので、ものすごく大きな音がする。しかもこの大きな回転翼を回すには、かなりの燃料が必要になる。

 

ところが1本の巨大回転翼を多数の小型回転翼で代替すれば、ノイズはかなり軽減されるし、1つ2つの回転翼が故障しても無事着陸できる。多数の小型回転翼は、過去10年間ほどのドローンの人気を受けて、軽量化、省エネ化がかなり進み、静かだけれど重い荷物を運べるようになってきた。

 

こうしたことを実現したのが新素材、3Dプリンター、AIなどの技術

 

軽くて丈夫な新素材を本体に使用することで軽量化が可能になった上、3Dプリンターで、どのようなサイズのモーターでもローターでも作れるようになった。電気モーターの燃料効率は95%で、ガソリンエンジンの28%を大きく上回わるようになった。

 

そしてそれを操縦するのがAI。10個以上の電気モーターを、それぞれ秒以下のレベルで細かく制御することで、効率的な飛行を可能にする。人間のパイロットでは到底不可能な芸当だ。

 

AIが操縦する際に考慮に入れるのが、複数個搭載された小型カメラからのデータはもちろんのこと、GPS、LIDAR、加速度センサーなどからのデータ。こうしたセンサー類は、スマートフォンが普及したことにより低価格化、高性能化が進んだ。

 

そして大事なのが電池。5人の大人を乗せて飛行するには、1時間に1kg当たり350kwの電力が必要になる。これがeVTOLを実現に向けての最大の難関だったわけだが、ここ最近のソーラー電池と電気自動車の普及で高性能化、低価格化が急務となり、その1つの副産物として、eVTOLが現実味を浴びてきたわけだ。

 

ただ一部のお金持ちのものではなく、一般市民の足になるためには、さらなるコスト削減が必要になる。そのためにはコンピューターによる本体、回転翼の設計が民間航空機の設計レベルにならないといけないし、炭素繊維や合金がさらに丈夫で軽くなる必要がある。なによりも3Dプリンターがより高速に新素材で部品を製造できるようにならなければならない。

 

そしてそれが可能になる見通しが立ってきた。なのでGoogleなどのテック大手に加えてエアバス、ボーイングなどの航空機大手までがこの領域に参入してきているわけだ。Uberはジェネラルモーターズと組んで空飛ぶタクシーを2023年にロサンゼルス、ダラス、メルボルンでサービス開始する計画。

 

日本では川崎重工業が機体、NECが運航システムの開発を進めており、ANA、日本航空も2023年ごろの運行サービスの開始を検討している。

 

Uberによると、現時点で1マイル当たりの運行コストがヘリコプターよりも安い5ドル73セント。その後コストが1ドル84セントにまで一気に低下し、最終的には自動車より安い1マイル当たり44セントになる見通しという。

 

eVOTLは、自動運転車よりも安全性が高くなると言われている。なぜなら自動運転車は人間が運転する自動車に混じって街中を走行しなければならない。AIにとって人間が運転する車は、行動が予測不可能なやっかいな移動物体。ところが空の上ではすべてのeVOTLが無人でAIの管制システムによって自動制御されているので、突拍子もない動きをする物体はいない。事故につながる可能性が格段に低くなるという。

 

さてeVOTLはどの程度便利で、どの程度普及するのだろうか。そこはまだ未知数だ。日本では諸般の事情でタクシー版のUberは普及しなかったが、外国の都市部で利用できるタクシー版Uberは、呼び出し、支払い、ライドシェアなどの面で非常に便利。あの便利さが上空でも実現するのであれば、それなりに普及するかもしれない。

 

しかし移動手段が変われば、都市の形が変わる。駅に近いことが不動産の価値を決めていた時代から、屋上にヘリポートを作れるかどうかが価値を決める時代になるかもしれない。このほかにも、いろいろな業種、業界に影響を与えるようになるだろう。

 

eVOTLは、技術の融合が生み出す技術革新、社会変化に1つの波に過ぎない。このほかにも、いろいろな領域が今後10年間で大きく変化していくことになるだろう。こうした変化の波を乗りこなせるように企業の体質を変化させ続ける。それが経営者の最も重要な仕事になる。

 

最後にマイクロソフトの創業者の言葉を経営者の皆さんに贈りたい。

 

「多くの人は、1,2年後の変化を過大評価し、10年後の変化を過小評価する」ビル・ゲイツ

 

ありえない話だと一蹴せずに、技術革新の兆しに注目し続けていただきたいと思う。

 

 

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。