米ベストセラー作家のファリード・ザカリア氏によると、感染病に配慮なき経済発展が今回のコロナ禍の根本的原因だという。ということは今回のコロナ禍が終息しても、別のパンデミックの再発は避けられない。同氏は近著Ten Lessons for a Post-Pandemic World(パンデミック後の世界のための10の提言)の中で、感染病に配慮した上での経済発展を進めるべきだなどという提言を行なっている。
同氏は2017年6月に放送されたCNNの番組の中で、近い将来パンデミックが発生すると予言。「この危機に備えるため政府は十分な予算を確保しておくべだった、国際協力体制を築いておくべきだったと、後悔するようになるだろう」と語ったという。
なぜパンデミックが発生すると断言できたのか。この本によると、途上国の急速な経済発展で野生動物の住む自然のすぐ近くに大都市ができたことが、パンデミック発生の可能性を大幅に引き上げたのだという。
今回のコロナ禍はコウモリ由来だと言われている。他の動物はウイルスに感染すると体調が悪化し動き回れなくなるのに対し、コウモリは体温が高く、ウイルスに感染しても平気で飛び回ってウイルスを拡散するらしい。またコウモリが集団生活することも、ウイルス伝染拡大につながっている。
コウモリは普通、人里離れた自然の中で生息しているが、途上国では開発が急速に進んだため、コウモリの生息地のすぐ近くに大都市が形成され始めている。大都市の食品市場などでは、周辺で獲れた野生動物が売買されているので、野生動物から人間に感染するケースが増えているのではないかという。
また野生動物から人間に直接伝染するのではなく、まず家畜が感染し、感染した家畜から人間が感染するというルートも考えられるという。家畜は同じ親から生まれた個体が多いので、遺伝子が似通っている。異なる遺伝子の集団だと感染が広がる可能性が低いのだが、同じような遺伝子の個体の間では病原体が一気に拡散してしまうのだという。
また家畜は抗生物質を大量に投与されているケースが多い。抗生物質に負けなかった感染力の強いウイルスが生き残ることになり、感染力の強いウイルスが人間に伝染すれば、人間社会でも一気に広まってしまう。
そして急に豊かになった途上国の人間が海外旅行にでかけるようになり、ウイルスを世界にばらまくようになったこともパンデミックが発生しやすい大きな要因になっている。
途上国での急速な経済発展、先進国での肉食中心の生活。今回のコロナ禍は起こるべくして起こったのだという。
逆に言えば今回のコロナ禍が終息しても、近い将来、別のパンデミックが再発する可能性が十分にあるという。
ではどう対処すればいいのだろう。途上国の経済発展を止めることはできない。しかし例えば野生動物の売買の禁止や、医療機関同士の国際協力の体制作りはできるはず。先進国での食生活の見直しも必要かもしれない。最も大事なのは、経済発展と安全性のバランスを取ることだろう。ザカリア氏は次のような表現で提言している。「車の性能を高めることばかり考えないで、エアバックも装備しよう。その前にシートベルトをしよう」。経済至上主義を改めて、国としても、個人としてもできることがあるというわけだ。
このほかにも同氏は、次のようなことを提言している。
・米国は医療体制は整っていたが、政府がうまく対応できなかった。うまく対応できなかった国は、台湾やシンガポール、韓国の対応方法に学ぶべき。
・米国では富裕層はいち早くPCR検査を受けることができたが、貧困層はたとえ医療従事者でも満足に検査を受けることができない。すべてを金銭ベースで考える自由主義経済から、少し社会主義的な施策を検討すべき。
・国際間の協力で根本的対策が取られない限り、パンデミックは再発する。この機会に社会のデジタル化が進んでいるし、さらにデジタル化を進めるべき
・国際間の経済格差が再び拡大することになる。国内の貧富の差も拡大するだろう。次のパンデミックまでに格差が拡大しない方法を考えるべき。
・国際交流、経済相互依存が戦争のない豊かな時代を作った。この流れを止めるべきではない
・日中の2強時代に入った。コロナ禍の責任のなすりつけあいなどをして、両国間の緊張を無責任に高めてはならない