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「DXはきっちり確認しながら進めるのがコツ」P&GグループDX担当副社長

  • 2020.11.12

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「DXは飛行機の操縦のようなもの。まずは離陸を成功させる。その後、平行飛行に入ってからも問題がないかきっちりと確認しながら進めるべき」。大手消費財メーカープロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のIT統括会社の元副社長Tony Saldanha氏は近著「Why Digital Transformation fail?(なぜDXは失敗するのか)」の中でDXのコツをそう語る。

 

飛行機は、離陸し一定の高度に達するまでに膨大なエネルギーを必要とするが、水平飛行に入った状態でも気をつけないとならないことが数多くある。気をつけなければ、せっかく離陸できても、墜落してしまう。同様に1つのDXプロジェクトを成功させても、企業がデジタル体質に移行できず、その後の技術革新の波を乗りこなせずに失速してしまう企業が多い。同氏によると、米国企業の7割がDXに失敗しているという。

 

P&Gでは2015年に、グループ会社から十数人の精鋭を集めてグループ全体のDXを推進する部隊を結成。まずはコンサルティング会社、同業者、ベンチャーキャピタル、大学など100社以上を訪問し、社会に激震を起こす技術の現状と未来について意見交換したという。「恐怖と興奮で胃が痛くなるような体験でした」とSaldanha氏は言う。

 

聞き取り調査を元に企業のDXの状態を5段階に分け、それぞれの段階でのチェックリストを作成し、1つでもチェックミスがないように慎重に進めていったという。DXの5段階とは、①基礎固め②部門ごとのDX③部分的シンクロ④全社がシンクロ⑤DNAがDX。チェックリストは、例えば第一段階「基礎固め」のフェーズでは、「トップが本気であることが社員に伝わっているか」「幹部がデジタル技術を十分に理解しているか」「プロジェクトを小分けにしているか」などがチェック項目になっている。

 

この「プロジェクトを小分けにする」というのがSaldanha氏の言うDX成功の主なコツの1つだ。

 

「なぜDXは失敗するのか③米デンバー国際空港」の記事の中で取り上げたデンバー国際空港の失敗は、DXを1つの巨大プロジェクトとして取り扱ったところに最大の問題があると同氏は指摘する。

 

P&Gでは、10-5-4-1を目安にDXプロジェクトを小分けしたという。デジタル化のアイデアが10個あれば、そのうちの5個は途中で失敗してもいい。継続する残りの5個のうち4個が生産性を2倍以上向上させる「ヒット」、1個が生産性を10倍にする「ホームラン」。1つの巨大プロジェクトとして進行するのではなく、10個のプロジェクトを集めた「ポートフォリオ」ととらえる。ポートフォリオ全体で、プラスの成果が出ればDXは成功という考え方にしたという。

 

事実、同社では小分けしたプロジェクトを「実験」と呼び、失敗したプロジェクトを「学習」と呼んだ。同氏がDXの陣頭指揮を取った3年間で25件の「実験」を行い、うち13件は「学習」、8件が生産性を2倍から5倍に向上させた「ヒット」で、4件が生産性を10倍向上させた「ホームラン」になったという。同氏は「ベンチャーキャピタリストになったつもりで、プロジェクトのポートフォリオを運用した」と言う。

 

Saldanha氏はまた、各プロジェクトのスピードも重要だと言う。「飛行機は加速しなければ、いつまでも離陸できない。DXプロジェクトも、スピードが何よりも重要」と言う。同社では事前調査に1ヶ月、プロジェクトの設計に2ヶ月、仮説検証に4ヶ月、開発を終え運用を始めて検証するのに8ヶ月、微調整を加えてプロジェクトを完了させるのに、16ヶ月。1-2-4-8-16を目安に、「実験」プロジェクトを進行させたという。

 

またITベンダー十数社と多数のベンチャー企業と一緒になって技術を開発した。最も斬新なアイデアを持っているのがベンチャー企業で、彼らのアイデアを大企業レベルでも利用できるソフトにするのがITベンダーの役割。ITベンダーが開発したソフトの知的所有権はITベンダーに帰属し、P&Gのライバル社以外への販売を認める契約にしたという。

 

DXプロジェクトチームを特区扱いにし、スピードを減速させるような社内のルールが当てはまらないようにもした。一方で、DXチームの拠点をP&Gシリコンバレー支社の中ではなく、米オハイオ州シンシナティのP&G本社の中に置いた。DXに抵抗する中間管理職をどう味方にするのかが、最も重要だからだ。「DXとは結局のところ、技術の話ではなく、人の考え方の話だからだ」と同氏は言う。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。