「パンデミックはチャンス」。止まらないドバイのスマートシティー戦略

AI新聞

iStock:dblight

 

世界有数のスマートシティーであるアラブ首長国連邦のドバイがこのほど、「COVID-19での市の経験、リジリエンスとインパクト報告書」を発表した。それによると、コロナ禍で行政サービスが停止することはほとんどなかったが、パンデミックを好機ととらえてスマートシティー戦略をさらに邁進すべきだと提案している。

 

同報告書をまとめたのはドバイ政府のIT推進担当部署であるSmart Dubai。同報告書によると、車両検査や司法関連のサービスで実際に人が立ち会わないといけない一部行政サービスが一時停止したものの、すぐにデジタル対応に切り替えたという。その他の行政サービスは一切停止することなく、市民にサービスを提供し続けることができたとしている。以前からの徹底したデジタル化が奏功したかたちだ。

 

同報告書では、今回のコロナ禍を通じて、次のような知見を得ることができたとしている。

 

 

(1)リモートワーク

 

どこででも仕事ができる状態を維持することの重要性を再確認。そのために必要な機器やセキュリティ、ネット接続速度などの状況を改善する必要があるという。リモートワークになることで従業員同士の雑談から発生するアイデアやコラボレーションの機会が損なわれている。それを解決するアプリやサービスが必要。

 

(2)オフィス形態

 

リモートワークが増えても、オフィスは必要。ただしスペースを縮小することでコスト削減が可能。オフィスの家具や間仕切りを移動可能にすることで、状況の変化に柔軟に対応できるオフィス環境が不可欠。

 

 

(3)UIUXとコールセンター

 

市民のためと、市職員のためにそれぞれ専用のモバイルアプリがあるが、特に高齢者にとっては使いづらいらしく、コールセンターに問い合わせが殺到した。コールセンターの人員拡充と、アプリの使い勝手やデザイン(UIUX)のさらなる改良が不可欠。企業も社員向けのコールセンターが必要。

 

(4)企業組織、文化

 

中間管理職の重要性が確認された。企業は中間管理職により多くの権限を委譲すべき。従業員の役割の再確認と、組織再編も必要。一方でビデオカンファレンスを通じて経営者との距離が縮まった企業もあった。従業員のタスクをトラッキングするようなツールや、生産性を予測するツール、各種AIが必要。企業文化は、時間よりも結果を重視するように変化すべき。

 

(5)従業員の健康管理

 

社員の身体的、精神的、社会的健康を維持することが重要。社員の健康が会社の業績に直結する。ウエアラブル機器で社員の健康を管理し、オンラインフィットネスサービスを提供する必要がある。会議以外の形で、従業員同士が気軽に交流できるオンラインの場が必要。

 

(6)技術

 

バーチャル・プライベート・ネットワークや、ビデオカンファレンス、データシェアリング、ペイメントなどの技術の改良が不可欠。アドビのデジタル署名などの古い技術よりも、 「UAE PASS」と呼ばれるデジタルID技術の徹底活用がスマートシティ戦略において最重要。

 

(7)デジタルトランスフォーメーションに対する考え方

 

ペイパーレスやオンライン化だけでは不十分。AIやブロックチェーンなどの新しい技術や、開発途中の技術までをも想定して、あらゆるサービスを作り変え続ける姿勢が重要。より効率的に、より高い価値を創造し、指数関数的に成長する。パンデミックはチャンス。コロナ禍が終わって元に戻すのではなく「build back better(よりよく作り替える」ことが重要。

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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