iPhoneが衛星につながった日——Amazonが115億ドルで買った通信帯域

AI新聞

米Amazonが4月14日、衛星通信会社Globalstarを約115億ドル(約1.7兆円)で買収すると発表した。だがこの取引の本質は、衛星会社の買収ではない。Amazonが手に入れたのは、120カ国以上で国際承認を得た通信帯域だ。

 

気づかぬうちに、iPhoneは衛星につながっていた

 

多くのユーザーは知らないが、iPhone 14以降の機種にはすでに衛星通信機能が搭載されている。圏外でも緊急SOS発信やメッセージ送受信、ロードサービスの呼び出しができるこの機能は、Globalstarの衛星網が支えてきた。Apple Watch Ultra 3でも衛星対応が始まったばかりだ。

 

今回の買収により、その衛星基盤はAmazonのLEO(低軌道)衛星網「Amazon Leo」に引き継がれる。Amazonは同時にAppleとの長期契約も締結し、現行および将来のiPhone・Apple Watchの衛星機能をAmazon Leoが担うと発表した。

 

「既存ネットワークが届かない場所に暮らす、旅する、事業を営む数十億の顧客がいる」。AmazonのDevices & ServicesシニアVPであるPanos Panay氏はそう語った。

 

Amazonが本当に買ったもの

 

Globalstarの衛星数は約25基。米SpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink」が約1万基を軌道上に保有するのと比べれば、圧倒的に小さい艦隊だ。衛星の数だけ見れば、AmazonがGlobalstarに115億ドルを払う理由は見えてこない。

 

鍵は通信帯域にある。Globalstarが保有するMSS(移動衛星サービス)スペクトラムライセンスは、120カ国以上で国際承認を得ている。衛星通信は特定国の規制機関の許可だけでは事業が成り立たない。世界中で同じ周波数帯を使えることが、グローバルなD2D(ダイレクト・トゥ・デバイス)サービスの前提条件だ。

 

Amazonが115億ドルで買ったのは、この通信帯域だった。

 

Starlinkは立ち止まらない

 

とはいえ、Starlinkが優位を手放すつもりはない。SpaceXはStarlinkの次世代機「V3」の投入を2026年上半期に計画している。V3は1基あたりダウンリンク1Tbps超、アップリンク200Gbps超を実現し、現行機比でダウンリンクは10倍以上の性能を持つ。同社の大型ロケット「Starship」での打ち上げでは1回あたり60Tbpsの容量が加わり、従来の小型ロケット「Falcon 9」によるV2 Mini打ち上げの20倍以上に相当する。

 

衛星数、通信速度、打ち上げ頻度——あらゆる指標でStarlinkはまだ先を走っている。

 

第二極の意味

 

それでもAmazon+Apple連合の意味は小さくない。Amazonは衛星の数で勝てないからこそ、Appleという世界有数の端末流通チャネルと、Globalstarの通信帯域という迂回路を選んだ。iPhoneとApple Watchという何億台もの端末が、衛星通信の「出口」になる。衛星通信が「山奥の非常用インフラ」から「端末内蔵の大衆インフラ」へと変わる転換点を、この取引は示している。

 

モバイル通信の主戦場は、静かに、しかし確実に地上から宇宙へ移り始めている。地上の基地局に数兆円を投じてきた日本の携帯キャリアは、どう動くのだろうか。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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