Netflix成功の秘密。新刊「No Rules」先行レビュー①

AI新聞

No Rules Rules

 

ルールがないというルール。この本はNetflixの創業者Reed Hastings氏と、フランスの名門ビジネススクールINSEAD のErin Meyer教授の共著で書かれた、Netflixの企業文化に焦点を当てた本だ。

 

物語は2000年に、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった大手レンタルビデオショップチェーンのBlockBusterへ、Hastings氏がNetflixの身売り話を持ちかけたところから始まる。

 

この本によると、その当時BlockBusterは、時価総額60億ドル、従業員6万人で、世界中に9000店の店舗網を持つ業界ナンバーワンの巨大企業だった。

 

僕もシリコンバレーに住んでいたときにBlockBusterはよく利用していた。どのショッピングモールに行ってもBlockBusterは目立つ場所に位置していたし、店舗面積では日本のTsutayaの数倍以上はあったと思う。それまでのDVDやレンタルビデオは、家族経営の小さな店舗が多かったように思うが、BlockBusterはそうした小さなビデオ屋を一掃し、レンタルビデオで独占的な地位を築こうとしていた。

 

インターネットが登場し、いずれレンタルビデオ業界は激変するだろうなとは予測していたものの、王者BlockBusterはそのブランド力で変化の波を乗り越える可能性が十分にあると思っていた。

 

当時、Netflixは赤字続きで、Hastings氏はNetflixをBlockBusterのオンライン部門として買収するよう持ちかけたのだという。ところが、一蹴されてしまう。

 

事実とは時に皮肉なものだと思う。Netflixの買収を断ったBlockBusterは2010年に破産宣告をし、2019年時点でBlockBusterの看板を掲げている店は最後の1店舗になっている。

 

一方のNetflixは世界190カ国に1億6700万人のサブスクライバーを持つオンラインビデオサービスであるだけでなく、自社で制作したドラマや映画が数々の賞を受賞する一大メディア企業になった。

 

同氏によると、Netflixは4つの変化の波を乗り越えてきた。

・DVD郵送からネット配信への変化

・古い映画、テレビ番組の配信から、提携スタジオ制作のオリジナルコンテンツ配信への変化

・他社制作コンテンツから自社制作コンテンツへの変化

・米国市場から、世界市場への変化

 

この変化の波を乗り越えてこれたのは、細かな規則を作らずに、社員一人一人の判断に任せるという企業文化があったからだという。ルールがないというのがルールというわけだ。

 

一方で、最高のパフォーマンスを出せない社員には、高額の退職金を支払って自主退社してもらう。

 

Netflixを成功に導いたのは、本当にこのシンプルなルールが原因なのだろうか。

 

ルールがなければ組織が1つにまとまらないのではないか。辞めさせられる可能性があれば、怖くて伸び伸びと仕事できないのではないだろうか。

 

きっと、このシンプルなルールだけでは語りきれない試行錯誤があったに違いない。

 

この本では、Netflixのこれまでの企業文化の変遷を3つのステージに分けて、それぞれのステージで、どのようなことが起こったのか、それにどう対処してきたのかが書かれている。

 

ただ成功者が過去を振り返って成功の秘訣を語る話は、往々にして参考にならないケースが多い。人間の過去の記憶は非常にあいまいであり、成功者の中には過去を美化する人が多いからだ。また成功者の能力は本人にとってあまりに自然なことで、それが特殊な才能だと気づいていない場合もある。

 

この本のすばらしい点の一つは、Hastingsが自分語りに終始するのではなく、学者のMeyer氏との共著にしているところだ。Meyer教授は、現在の従業員及び元従業員200人以上に対し匿名インタビューを実施し、その結果から同社の企業文化を客観的に分析したという。本の中では、どの段落を誰が担当したかが、顔写真つきで明記されている。これによりHastings氏の主観、Meyer氏の客観の両方の視点から、同社の企業文化を知ることができるようになっている。

 

今、多くの日本企業にとって、デジタルトランスフォーメーションが急務になっている。しかしデジタル化を進めるだけでは成果は出ない。企業文化もデジタル時代にふさわしいものに変えていかなければならない。

 

日本企業にとっても、Netflixのこれまでの試行錯誤は参考になる点が多いのではないかと思う。

 

No Rules Rulesは、米国で9月8日に発売された。すでに米国Amazonではベストセラーになっていて、日本語訳も10月22日に出版されることになっている。

 

日本語版が出るのを待ってもいいが、英語版は平易な口語体で書かれているので読みやすい。また最近はDeepLなどの優れた自動翻訳サービスもあるので、日本語版を待てない人は英語版を読み始めてもいいだろう。

 

AI新聞ではこれから何回かの原稿に分けてこの本を取り上げ、テクノロジーと企業文化の関係についての考察を進めていきたいと思う。

 

10月22日の日本語版発売予定に先駆けた英語版の先行レビューのシリーズ。

 

日本語版の発売に合わせてオンライン勉強会を開催する予定です。詳細は後日発表します。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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