AIに意識が宿った!?2022年上期AIニュース②

AI新聞

 

 

 

去年に引き続き今年上半期最大のニュースは巨大言語モデルのさらなる進化だろう。中でもGoogleの対話型AIのLaMDAは、同社のエンジニアでAI倫理の専門家が「LaMDAに意識が宿った」と大騒ぎするほど進化したらしい。

 

大騒ぎしたのは同社のAIの品質検査を担当したBlake Lemone氏で、同氏はLaMDAが差別的発言をしないかテストしていたところ、あまりに受け答えが完璧なので「AIが意識を持った」と確信するに至ったという。同氏は経営陣にそう報告したところ、経営陣は同氏の主張を却下し、LaMDAの実用化計画を進めることにしたという。これに反発した同氏はワシントンポスト紙などに情報を提供。世界中が大騒ぎとなった。

 

社内の機密を社外にわざと漏洩したのは秘密保持契約に違反すると、その後同氏は解雇されている。

 

さてGoogleのAIは本当に意識を持ったのだろうか。AIが意識を持つようになれば、SF映画の中に出てくるAIのように、いずれAIが人間に歯向かうようになるかもしれない。GoogleはLaMDAの危険性に気づきながらも、企業としての利益を優先し、LaMDAの実用化計画を進めているのだろうか。

 

まず本当にAIは意識を持つことが可能なのだろうか。

 

これは非常に難しい問題で、第一に意識とはどういうものかということが分かっていない。意識が何であるかに関しては、いろいろな説はあるものの、学問領域を超えてアカデミズム全般で広く受け入れられている定義、定説があるわけではない。定義できないもの、分からないものを、電子回路で再現できるわけはない。

 

またAIの研究者の間では、AIは統計データを基にした数理モデルであるという考え方が主流だ。AIは、大量の文章データからパターンを見つけ出し、特定の表現のあとにどういった表現が続く確率が高いのかを予測しているだけ。どういう受け答えをすることが一般的なのかを過去データから確率的に予測しているだけで、何か考えがあったり意図があったりするわけではない。

 

なのでGoogleの経営陣が下した「意識を持ったわけではない」という判断は間違っていないと思う。危険性を知りつつも、金儲けのために計画を先に進めているわけではないと私は思う。

 

問題は、単なる統計モデルであることを百も承知のAIの研究者が「このAIは意識を持っている」と感じたということだ。それほど自然な対話型AIだということだ。

 

▼人間とAIがコラボする時代

 

Googleは社員によるLaMDAのテスト利用のフェーズを終え、一般ユーザーにも試験的に限定公開し始めた。「AI test kitchen」というキーワードで検索し、そのサイトにアクセスし、試験利用に申し込むと、順番がくればLaMDAを試験的に使うことができるようになっている。

 

AI test kitchen では、LaMDAの応用例として3種類の機能が用意されている。1つはImagine itと呼ばれる機能で、物語の大枠のアイデアをLaMDAに伝えれば、LaMDAはクリエイティブで関連性のある情報を生成してくれるという。

 

例えば物語の登場人物の一人が海の奥底を探検しているとしよう。そこでLaMDAに「もしわたしが海の奥深くに潜ったら、海の底ってどんなところだろう?」と問いかけると、LaMDAはマリアナ海溝について説明してくれる。さらに次に聞くことのできる質問まで提案してくれる。「そこは、どんな臭いがするのだろう?」「そこにはどんな生物が生息いるの?」「真っ暗闇ってどんな感じなんだろう?」などと質問がリストアップされる。そこで試しに「そこにはどんな生物が生息しているの?」という質問をタップすれば、「不思議な生物が生息しています。手の指ぐらいの大きさの生物もいれば、自動車ほど大きな生物もいます。珊瑚のような生物や、暗闇の中で輝く生物をいます」などと回答してくれる。

 

LaMDAは、こうしたやりとりをするように細かくプログラミングされているのではなく、ウィキペディアやブログ、ニュース記事など、ネット上の大量のテキストデータから学習したことをベースに受け答えしているわけだ。

 

このためLaMDAにどのような話題を振っても、LaMDAはほぼ毎回、受け答えできる。「もし私が土星の環の部分に降り立ったら?」「もし私がアイスクリームでできた惑星に着陸したら?」「もし私が原子の核の中に入ったら?」などと、いろいろなテーマでLaMDAに質問できるという。

 

重要なのは、1つのテーマから離れないということ。途中でいろいろな受け答えをしても、必ず1つのテーマの中での対話が続くという。1つのテーマを忘れないで受け答えするということは、AIにとっては結構困難タスクだが、LaMDAはそれができるようになっているという。

 

2つ目の機能は、Talk about itと呼ばれるもの。例えばLaMDAに「犬って、どうしてボールを投げれば喜んで取りに行くんだろう?」と質問すると、「犬は人より嗅覚が優れていて、ボールについた臭いを元に宝探しを楽しんでいるのかもしれない」と答えてくれる。ここからさらに、どんな方向にも会話を進めることができる。犬の嗅覚について追加質問することも可能で、例えば「どうして犬って嗅覚がそんなに優れているの?」と聞くと「多分、臭いの粒子を受け取る何百万ものレセプターが鼻の中にあるからだと思うよ」と答えてくれる。

 

何を聞いても、犬というテーマから外れることなく受け答えしてくれるという。

 

3つ目の機能はList itと呼ばれるもの。List itは、何らかのゴールやタスクを入力すると、それを達成するためのサブタスクのリストを作ってくれる。例えば「家庭菜園を作る」というゴールを入力すると、家庭菜園を作るのに必要な具体的なサブタスクをリストアップしてくれる。AIはユーザーの意図を理解し、ユーザーが思い付かないようなアイデアを提案してくれるという。

 

家庭菜園の例だと「何を植えるのかをリストアップしましょう」「あなたの住む地方で、育ちやすい野菜をリサーチしましょう」「庭のどの部分を菜園にしますか」「菜園のレイアウトを考えましょう」「菜園作りを計画しましょう」「種を植えましょう」というサブタスクが表示される。

 

そのうちの1つ「あなたの住む地方で、育ちやすい野菜をリサーチしましょう」というサブタスクをタップすれば、さらに具体的なサブタスクが表示される。「ご近所さんで家庭菜園をしている人に聞いてみましょう」「友人知人に家庭菜園をしている人がいないか聞いてみよう」「ガーデニングセンターに行ってみよう」などといった提案が表示される。

 

サブタスクだけでなく、アドバイスもくれる。「庭が小さい場合は、トマト、レタス、ピーマンをプランターに植えてはどうでしょう」といった感じだ。

 

目標やゴールが大きければ大きいほど、まず何をして、今後何をしていけばいいのか分からなくなるもの。List itはタスクを細分化するだけでなく、アドバイスまでくれるので、大きなゴールでも達成しやすくなるのだという。

 

AIは人間の仕事を奪うという予測もあるが、LaMDAを見る限り、当面の間AIは人間の知的活動を支援してくれることになりそうだ。最終的にはAIが人間の仕事を奪うのかもしれないが、少なくとも今はAIと人間がコラボする時代に向かっているようだ。

 

▼実用化もうすぐ?社会に影響は?

 

さて社員による試験運用が終わり、一般ユーザー相手の試験運用が始まったということは、いよいよ新サービスとして一般リリースが直近だということだろう。来年にはLaMDAが一般公開されるかもしれない。使い方としては、ユーザーの質問に答えるTalk about it、物語を書くのを支援してくれるImagine it、プロジェクトの計画策定を支援してくれるList itなどがまずは実用化されるだろう。

 

既に実用化されている機能もある。最近のYouTube動画の翻訳字幕の質が向上していることに気づかれただろうか。内容によって章立てされるようにもなっている。これは動画のクリエイター自身で翻訳したり章立てしているわけではないのに、自動で翻訳されたり、章立てされているわけだ。Googleによると章立て機能(自動チャプター生成)は昨年から導入しているが、今年はさらに性能がアップ。チャプター付動画の本数が年間800万本から8000万本に増えたという。また字幕生成機能、翻訳字幕機能も拡充。動画内の音声を自動で文書化して字幕として表示、さらにはそれを自動翻訳し、16の言語で表示可能になった。

 

YouTubeに動画をアップすることで、世界中のユーザーに向けて情報を発信できるようになった。YouTubeで動画配信することで、これまで国内に限定していたビジネスを簡単に海外展開できるようになったわけだ。

 

また自動要約の機能がGoogle Docsに追加されるという。私自身まだ試せていないので、どの程度の精度かは分からない。だが、あらゆる文書がそれなりの精度で的確に要約されるようになれば、かなり情報収集の生産性が向上することだろう。自動要約がリリースされれば、一番にその性能を試したいと思う。

 

Googleは自動要約の機能をGoogleのメッセージングサービスなどにも応用していくとしている。

 

そして巨大言語AIがさらに進化すれば、より多くの使い方が可能になるかもしれない。AIが人間の話し相手になり、AIを親友や恋人のように感じる人も出てくるだろう。AIに精神的に依存し過ぎる人が出てくれば、社会問題になるかもしれない。SF映画のような未来がすぐそこまできているのかもしれない。

 

今のAIブームを引き起こしたのは、画像認識AIだった。画像や動画の中に何が写っているのかをコンピューターが認識できるようになったことで、工場の製品の異常検知や、空港のセキュリティゲートの自動化など、さまざまな領域でAIが利用されるようになった。自動運転車も画像認識AIができたので、可能になる領域だ。いろいろな産業を根本から変えるような力をAIは持っているわけだ。

 

今のAIの研究開発の中心は、画像認識AIから巨大言語 AIに移行した。研究者や論文の数も圧倒的に言語 AIの方が多いようだ。画像認識AIが起こしたような産業変化、社会変化を、言語 AIが引き起こすことになるのだろうか。

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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