実践コミュニティで広げる個人と企業の可能性

AI新聞

日本企業が抱える問題として、社外の人との交流の少なさが挙げられることがある。時代変化が加速度を増す中で、社外の人間との交わりがイノベーションの源泉であると指摘されるようになって久しいが、withコロナの時代になって社外の人との交流がますます困難になってきている。そんな中、注目を集めているのがプロフェッショナルが集まる実践コミュニティだ。実践コミュニティに参加することで、人も企業も大きく成長する時代になりつつあるようだ。

 

エティエンヌ・ウェンガー著コミュニティ・オブ・プラクティスによると、実践コミュニティとは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団、を指す。この本によると、人類は昔からこうした実践コミュニティを通じて、個人や組織が学び、成長してきたという。

 

ただ知識経済社会が加速度を増す中で、最前線に立つ組織が成功するためには、この昔からある実践コミュニティの仕組みをビジネスの中枢に置くことが重要になってきているという。知識が複雑かつ専門的になる一方で、賞味期限がますます短くなっているからで、もはや1つの企業に属する人たちだけでは、知識社会で勝ち残れなくなってきているという。

 

この本の中では、実践コミュニティの成功例が幾つも紹介されているが、1つだけシェル石油の例を挙げておこう。

 

シェル石油では、地質学や油層工学、岩石物性学、地球科学の学者たちを集結。最初は15人ほどがカジュアルな雰囲気の中で交流するグループだったが、ピーク時には125人を超えるコミュニティに成長。この中で行われた議論を基に油層開発技術や予測精度が向上し、年間で1億2000万ドルの経費削減に相当する成果を上げたという。

 

株式会社エクサウィザーズ の石山洸氏によると、日本にも成果を挙げている実践コミュニティが幾つか存在するという。

 

その一つが人材派遣のパーソルが運営するエンジニアの実践コミュニティTECH PLAYだ。TECH PLAYは、もともとはウェブ系のセミナーや勉強会の情報を掲載するウェブサイトとしてスタートしたが、その後イベント会場を持つようになり、IT系企業を中心に利用者が増えていった。現在では会員数15万人。日本国内のエンジニア人口が90万人と言われているので、その1/6TECH PLAYの会員ということになる。

 

また科学技術分野で教育、研究、コンサルティング業務などを手がける株式会社リバネスは、世界中の研究者をまとめたコミュニティを運営している。

 

一方エクサウィザーズでは、大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の担当者が集まる実践コミュニティ「エクサコミュニティ」を運営しており、このほどパーソルのTECH PLAYとの協業を発表。今後、企業へのデジタル人材採用支援を加速化していくという。

 

今後、TECH PLAY、リバネスコミュニティ、エクサコミュニティが連携し、草の根の横のつながりが、どの程度広がっていくのだろうか。日本社会の縦割り文化の縦の糸に、交わっていこうとする実践コミュニティの横の糸。縦の糸と横の糸が交わることで、どのようなビジネス文化の着物を織ることができるのだろうか。

 

日本最先端の実践コミュニティの進化を見守っていきたい。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

  • Home
  • AI新聞
  • 実践コミュニティで広げる個人と企業の可能性

この機能は有料会員限定です。
ご契約見直しについては事務局にお問い合わせください。

関連記事

記事一覧を見る