宇宙がビジネスになる時代がきた

AI新聞

 

宇宙開発は超富裕層の道楽。そう思って傍観していたのだが、Amazonが人工衛星事業の最新情報を発表したり、イーロン・マスク氏率いるSpaceXが民間人だけの宇宙飛行を成功させたりと、このところ宇宙開発関連のニュースが続いている。いよいよ一般ビジネスパーソンにとっても、宇宙がビジネスの対象になるフェーズに入ってきたのかもしれない。

 

このフェーズで、一般企業に関連しそうなビジネス領域は2つ。1つは、人工衛星が提供するサービスを活かしたビジネス領域。もう一つは、宇宙旅行に関連するビジネス領域だ。

だれでも衛星を操作できる

人工衛星の領域では、SpaceXが衛星ネット接続サービスで先行しているが、このほどAmazonは、来年末までにネット接続サービス向けの衛星のプロトタイプ2基を打ち上げる計画を発表した。興味深いのは、打ち上げを担当するのは同社の創業者ジェフ・ベゾス氏の宇宙ベンチャーBlueOrigin社ではなく、カリフォルニア州のロケットベンチャーABL Space Systems、というところだ。

 

ベゾス氏CEO退任後の新経営陣は、創業者の道楽に付き合うのではなく、確実に収益化を狙ってきていることが分かる。

 

収益化の可能性は十分にあるようで、ニューヨーク工科大学のBabak Beheshti学部長が米ニュースメディアRecodeに語ったことろによると「コロナ禍の影響で大学や自治体などのブロードバンド接続のニーズが急増している」という。また同学部長によると、同社のクラウドコンピューティングサービスAWSの顧客企業は、Amazonの衛星ネット接続事業の顧客になる可能性が高く、事業に乗り出す前から儲けが確定しているようなものだという。

 

それに世界中には、地上経由のブロードバンド接続が提供されていない地域がまだまだ残っている。衛星ネット接続を提供することで、ネットユーザーが一気に増える。ネットユーザーが増えて一番得をするのは、ネット通販最大手のAmazonになることは間違いない。

両社のほか、航空機大手のBoeing社も衛星事業に関し、米当局の認可を受けたと発表。今後衛星ネット接続の競争が激化するのは必至だ。

競争が激化すれば質は向上し、価格は低下する。世界のどこからでもコスパよく繋がるネット接続のインフラが誕生するわけだ。過疎地への遠隔医療やオンライン教育などに加え、新たなビジネスが登場する可能性がある。また特に途上国の経済や社会、教育に大きな影響を与えることは間違いないだろう。

 

一方、Amazonが提供するのはネット接続だけではない。同社は人工衛星を制御し、衛星データを収集するAWS Ground Stationと呼ばれるサービスを提供している。

 

衛星は天気予報や、地表画像撮影、通信、放送など幅広い用途に利用されているが、AWS Ground Stationの顧客企業は、衛星からのデータを保存するためのAmazon S3、データを収集して管理するためのAmazon Kinesis Data Stream、機械学習のカスタムアプリケーションを構築しデータセットに適用するためのAmazon SageMakerなどのツールを利用できる。料金は、実際にアンテナを使用した分に対してのみ課金されるので、必要なときに必要なだけ人工衛星を使うことができることになっている。

 

例えば衛星を使ってショッピングモールの駐車場の混雑具合の様子を人工衛星から写真に撮り続ければ、そのモールの売上の推移を予測できる。このように、これまでになかったような情報が入手できるようになると言われている。一般企業でも、人工衛星をビジネスに活用できる時代になったわけだ。

人類は多惑星種に

 

2つ目の可能性のあるビジネス領域は、宇宙旅行だ。

 

SpaceXは、9月に民間人だけのロケットの打ち上げに成功。4人の民間人は大気圏外に3日間滞在したあと無事帰還している。訓練を受けた宇宙飛行士が実験として宇宙飛行したわけではない。宇宙旅行時代の到来を前提とした最初の民間人のみの宇宙飛行が行われたわけだ。このプロジェクトはNetflixが密着取材し、ドキュメンタリー番組「Count Down」として公開している。宇宙がメディアビジネスにもなった。

一方、Virgin航空の宇宙事業会社Virgin Galactic2022年末に宇宙旅行業を開始すると発表しており、既に600人が一人当たり25万ドルから45万ドルの運賃を支払っているという。

 

Netflixの「Count Down」に解説者として登場する米有力誌TIMEのジェフリー・クルーガー記者は、9月の民間人だけの宇宙飛行を「人類が多惑星種になるための重要な一歩だ」と語る。だれもが宇宙旅行をする時代。大気圏外や月面、火星などへ移住する時代が始まろうとしているわけだ。

 

そしてそうなれば当然、新しいビジネスが生まれてくるはず。

 

だれでも宇宙飛行できるといっても、一定期間の訓練や準備は必要。そこでイーロン・マスク氏は、米テキサス州南部のロケット発射場の近くに、宇宙旅行に行く人とその家族のための街を作ろうとしている

 

既にその地区を管轄する自治体との話は進んでおり、最終的にはSpaceXの従業員や旅行者とその家族が生活し、観光客が宿泊できる街になるという。

 

宇宙にホテルを建設する計画もある。Gateway Foundation社は2027年までに、施設内で重力を実現し普通に生活できるような宇宙ステーションを大気圏外に打ち上げ、年間3万人の民間人を宇宙に送り出したいとしている。

 

今世紀中には、宇宙基地に定住する人も出てくるだろう。そうなれば、自給自足の仕組みが必要になる。

 

農林水産省は、月や火星に人類が移住した際に、必要となる食料を供給するためのシステムを開発する目的で、研究と実証のためのプロジェクトを開始。協力してくれる研究機関の公募を始めている。

 

このほかにも人類が宇宙で生活するようになるためにはいろいろなニーズがあり、それを解決するというビジネスチャンスもあるはず。

 

米空軍の技術インキュベーション組織Space WERXは、人工衛星への給油や修理、宇宙ゴミの回収など、人工衛星周りのビジネスを創出するための支援プログラムOrbital Primeを発表した。ベンチャー企業、大学、非営利団体などがチームを組んで新しいビジネスのアイデアをピッチ。入賞したチームは2022年の最初のラウンドで25万ドル、第2ラウンドで150万ドルの契約を受注できるという。見込みのあるチームにはさらなる資金援助が可能だとしている。

 

日本も119日にイプシロン5号機の打ち上げに成功したばかり。JAXAの山川宏理事長は「衛星産業の国際競争力強化や、宇宙利用の拡大につながってほしい」と語っている。

 

さあ、宇宙がビジネスになる時代がいよいよやってきた。

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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